◆ひとり暮らしの経験
それゆえ多くの人の意識に、「結婚したら実家を出て、家を建てる」というライフプランが刷り込まれている。逆にいうと、結婚するまでは実家を出る必要がないことになる。
進学や就職を機に大学、職場の近くでひとり暮らしをするケースもないわけではないが、富山の土地に降り立つと、“単身者用の集合住宅”が非常に少ないことに気づかされる。
「ひとり暮らしをしたことはあるんです」と、カスミさんはつづける。
「母はいまで言う“毒親”。当時はそんな言葉なかったのですが、私の子ども時代は、瞬間湯沸かし器のようにすぐ怒る過干渉な母の顔色を常にうかがい、気の休まらない毎日でした」
そこで地元の短大に入学した姉が、「アンタは、この家から出たほうがいい」と助言してくれた。
進学校に通っていたカスミさんは「4年後には必ず帰ってくる」「公務員になる」を条件に京都への進学と、ひとり暮らしの許可を両親から得た。
「同級生も女子はだいたい似たような感じでした。実際、県外に出た子もほとんどが地元に帰って就職しています。ひとり暮らしは楽しかったですよ。呼吸がラクだったなぁ。離れてはじめて、ウチの母親ってちょっとおかしいのかなと気づけました」
カスミさんは約束を守り、新卒で地元の役所に就職。教育関係の業務を担うようになって今年で20年目になる。