まさか泣くわけないと思って見ていたが、やはり井口は泣かなかった。
井口は、泣かない男なのだ。2022年の『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)で優勝を勝ち取った瞬間も、滂沱の涙を流す相方・河本太を横に置き、平然とトロフィーを受け取っていた。『M-1アナザーストーリー』で母親と電話をしたときにも泣かなかったし、その「泣かなさ」をネタに『チャンスの時間』(ABEMA)で井口を感動の映像で泣かせようという企画が放送されたこともあった。
井口は泣かない理由を「男の子だから、強くありたいから」とたびたび語っている。「泣くのをガマンしているほうが偉いだろ」と言ったこともあるし、「ほほを拭くのが面倒くさい」と言ったこともある。「『M-1』で優勝して泣く意味がわからない」とも。
いずれにしろ、井口が泣かない理由は見ているこちらもよくわからない。だが、見てみたいと思うのだ。あの井口が、激情にまみれて涙を流す姿を、いつか。
(文=新越谷ノリヲ)