「……死んだ」

 マキちゃんの家の靴屋は倒壊こそまぬがれたものの、マキちゃんは倒れたタンスの下敷きになって亡くなったのだそうです。

 翌日になっても、食事ものどを通らないアユ。結ちゃんが差し出す魚肉ソーセージにも目もくれません。そして、パパが自宅から持ってきてくれた宝物の入ったカンカンを開けると、そこにはマキちゃんと写った写真や、マキちゃんからもらった安室奈美恵のCDが入っているのでした。

 そんな一部始終を結ちゃんから聞いた野球カッパは思わず涙。「なんであんたが泣くん?」と結ちゃんが博多弁バージョンの秦基博を披露しつつ2人でメソメソしていると、おじいちゃん(松平健)が登場。結ちゃんとカッパを糸島フェスの打ち上げへと誘うのでした。

■カッパが泣き出したとき

 カッパが泣き出したとき、あーよくないなぁーと思ったんです。

 そもそも、『おむすび』の序盤における最重要シーンであるはずの震災当日のエピソードを、なんであんまりよく知らないカッパに語って聞かせる形で御開帳しているのか疑問だったんです。アユも帰ってきたわけだし、家族で一緒に振り返ったり、あるいはいつものように海辺で結ちゃんがひとりで思い返してもよかったと思うんですが、このドラマは「カッパに話して聞かせる」というスタイルを選択した。

 そしてカッパが泣き出すことにより「カッパは人の心がわかるイイヤツ」という情報を付加し、さらにフェスの打ち上げに強引に誘うことによって、結ちゃんとカッパの距離を近づけようとしている。

 人はみな、過去を振り返るより今を生きるべきだとは思うけど、よりによって震災を「結ちゃんとカッパの距離を急接近させる」ためのツールとして使っちゃってない? と感じるわけです。現時点で、結ちゃんがひた隠しにしてきたトラウマ、心のひだ、その何もかもをさらけ出す相手が、カッパである必然性が全然ないんだもの。ちょっと作劇上の下心みたいなものが垣間見えた次第です。