◆あれは、人生のカットが撮れたんです
――星野夫妻の愛猫チャロの存在も大きかったですか?
藤澤:大きい。感情がたかぶって涙を流す弥生さんを励ます。チャロを撮らなければならないと思いました。好きなカットがたくさんあります。
馬場:チャロは最初お客さんが大嫌いでした。夫婦は夏に1ヶ月ヨーロッパに行くのですが、近所の私たちは餌やり当番があり、みんな引っ掻かれました。ところが、自分が糖尿病になると、方針変えたんですね。お客さんがくると出てくるようになりました。
藤澤:どうしてあんなに変わったのか。
馬場:弥生さんは節約家なのに、1ヶ月の旅行中、チャロのためならクーラーをつけっぱなし。チャロにはお金を使うんだなと心底驚きました。
――稔さんにチャロが続いた後、すごく映画的な雪のワンカットがありました。本作は深遠な題材ながら、ぽこっと温められるような感じがあります。作り終えてどう感じましたか?
藤澤:「よかったな」と。ラストのカットで、一本道が見えて、桜が映る。そのとき、影になるところがあります。あのカットはまぐれで撮れましたが、役に立ちました。あのワンカットがあるからエンディングが決まった。意図してないので、ほんとうに偶然じゃないと撮れません。あれは、人生のカットが撮れたんです。
<取材・文/加賀谷健 撮影/山川修一>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu