しかし、これらの設定が常に貫かれているジャンルだけに「マンネリ」とされ、客離れしてしまったために、制作本数が激減してしまった。しかも、手間と金がかかるジャンルゆえに、制作にまつわる技術継承もされぬまま消えかかっている。
でも考えてもみてほしい。人情味あふれる物語やゴージャスな衣装やセットは、不安と不穏と不況の三拍子が揃った現代を生きる誰にも夢を与えるものだし、そもそも大好物なはず。特に今の日本では。『SHOGUN~』には、その日本人マインドに響く作品になっているのだ。
◆「大きな再解釈をすることなく映像化」原作本の奥深さ
戦国時代、関ヶ原の合戦前夜。徳川家康をモデルにした虎永は五大老に命を狙われていた。そんなときに、イギリス人航海士ジョンを乗せた船が難破し、虎長の領地に漂着。虎永はキリシタンで英語を喋ることができる戸田鞠子を通訳にしたことで、ジョンから異国の戦術を学びとる。また、命を救われたジョンもまた当時の日本で暗躍していた外国人宣教師たちの陰謀を暴こうとしていた――。
これが本ドラマの前半あらすじ。異国の人ジョンの目を通した異文化ギャップを描いたドラマではなく、油断は死に直結する世界を生きる人々の陰謀渦巻くファンタジーとして受け入れられている。
そこに、鞠子とジョン(後の按針)とのロマンス、迫りくる聞きに立ち向かう按針と虎永率いる一派のチーム男子的攻防など、日本のプライムタイムで放映したとしてもF2層の人気を得られそうな要素が詰まっているのだ。
特にエミー賞で主演女優賞を獲得したアンナ・サワイが演じる戸田鞠子のキャラクター設定は、多才かつ自立した女性像そのもので、今を生きる女性の共感を誘う。
1975年に発表され全世界で1500万部以上売れた小説『SHOGUN 将軍』の日本語翻訳版が、全4巻で復刊している。ここまでに述べた世界観が、この原作本に詰まっている。しかも、それを大きな再解釈をすることなく映像化しても、ここまで現代にフィットするとは驚きだ。