公的年金を受給するには原則として自分で申請する必要があります。しかし会社員の場合、税金や社会保険などは会社が処理していたため、年金の申請をうっかり忘れてしまう人もいるようです。今回は制度を知らなかったり、間違った思い込みのため請求するのを忘れがちな年金3つをご紹介します。これから年金をもらう人はもちろん、今もらっている人も、申請漏れがないかぜひチェックしてみましょう。
60歳前半でも受給できる老齢年金がある
「年金は65歳から」「在職中はもらえない」という思い込み
2020年時点で50代、60代の方であれば、65歳になるまでに年金を受給できる可能性があります。対象者には、60歳前半に日本年金機構から年金請求書が送付されますが、この請求をしないままの人は少なくありません。
「年金は65歳からなので、急いで申請しなくてもいい」と思い込んでいる方や、「65歳前から受給すると年金が減額される」と『年金の繰上げ受給』と勘違いされる方、また「まだ働いているので、どうせ年金はもらえない」と『在職老齢年金』を間違って覚えている方など、理由はさまざまです。
特別支給の老齢厚生年金
現在、年金の受給開始年齢は65歳ですが、ひと昔前は60歳でした。ただし、いきなり年金の受給年齢が変わったわけではなく、この引き上げをスムーズに行うために設けられた制度があります。それが、「特別支給の老齢厚生年金」です。
この年金は、10年以上公的年金の保険料を払い、かつ1年以上厚生年金のある会社で勤めた経験がある人であれば受給できる可能性があります。特別支給の老齢厚生年金には「定額部分」と「報酬比例部分」がありますが、これからの人が受け取るのは報酬比例部分のみです。受給開始年齢は生年月日と性別によって決まります(表1)。
表1.特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢(報酬比例部分)
受給開始年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
60歳 | 1949年4月2日~ 1953年4月1日生まれ |
1954年4月2日~ 1958年4月1日生まれ |
61歳 | 1953年4月2日~ 1955年4月1日生まれ |
1958年4月2日~ 1960年4月1日生まれ |
62歳 | 1955年4月2日~ 1957年4月1日生まれ |
1960年4月2日~ 1962年4月1日生まれ |
63歳 | 1957年4月2日~ 1959年4月1日生まれ |
1962年4月2日~ 1964年4月1日生まれ |
64歳 | 1959年4月2日~ 1961年4月1日生まれ |
1964年4月2日~ 1966年4月1日生まれ |
この年金は請求しないともらえないのはもちろん、5年経過すると時効によって権利が消失します。自分が対象者かどうか確認しておきましょう。
障害の状態になったら加算される年金がある
受給できるのは障害年金or老齢年金という思い込み
特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分を受給できる権利がある人の中で、障害の状態にある人には、老齢年金が加算される場合があります。
障害年金と老齢年金はどちらも受給できないと思い込みで申請をしない人がいます。
障害者特例制度
1949年4月2日以降に生まれた男性、または1954年4月2日以降に生まれた女性が受給できるのは、特別支給の老齢厚生年金の「報酬比例部分」です。この受給権がある人で、かつ厚生年金保険法に定める3級以上の障害状態にある人は、さらに「定額部分」を受け取ることができます。これを「障害者特例」といいます。
これは老齢年金の特例としての加算であり、障害年金とは異なります。ただし、この特例制度は厚生年金保険の被保険者は受けられません。つまり適用事業所で働いていないことが条件になります。
歳の差夫婦がもらえる年金の家族手当
ねんきん定期便に書いていない年金
会社員・公務員として働いてきた方が65歳になった時点で、その人に生計を維持されている配偶者や子供がいる場合、年金が加算されます。言わば、年金の家族手当のような制度です。この制度はねんきん定期便に書かれていないので、そもそも存在を知らない人もいます。
加給年金
厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人が65歳に到達した時点で、生計を維持している一定の配偶者や子どもがいるときに年金が加算されます。これを「加給年金」といいます。対象者と金額は以下の通りです(表2)。
表2.加給年金の対象者と加給年金額
対象者 | 年齢制限 | 加給年金額 |
---|---|---|
配偶者 | 65歳未満であること | 22万4,900円 |
1人目・2人目の子 | 18歳到達年度の末日までの間の子 または1級・2級の障害の状態にある 20歳未満の子 |
1人につき22万4,900円 |
3人目以降の子 | 1人につき7万5,000円 |
なお、受給権者が1943年4月2日以降生まれの場合、配偶者に16万6,000円の特別加算があります。夫婦の歳の差があるほど長く受給できますが、受給できるのは届出をした後からです。
日本年金機構から届く年金請求書をしっかり確認しよう
もらい忘れの多い年金と、申請忘れのよくあるケースをご紹介しました。そもそも加給年金など存在を知らなければ受給できないものもありますが、何らかの年金の受給権が発生すると日本年金機構から年金請求書が届きます。自分には関係ないと思わず、まずはしっかりと確認してみましょう。
文・松岡紀史
肩書・ライツワードFP事務所代表/ファイナンシャルプランナー
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。
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