◆あえて老け込ませていない
SNS上では航一のビジュアルに対して、「航一さんだけ歳を取らないな」や「もっと白髪増やしたほうが……」、「シワとシミを加えてあげて」と、実年齢よりはるか上の役柄を演じる岡田将生にもっと老けメイクを施すべきだという意見が総じて散見される。
でもあえて老けメイクを薄めにしているんじゃないのかなと筆者は思う。『昭和元禄落語心中』(NHK総合、2018年)では、白髪まじりの七三分けスタイル。塗り重ねた老けメイクを施して八代目有楽亭八雲を演じていた。同じNHKのドラマ作品なのだから、やろうと思えば老け込める。
なのに老け込ませていない。岡田が目指すのは、それこそ霞のような存在感なのではないかと思う。歳をとるごとにもっと気体のような存在に近づき、存在自体を超越する。そのためには、いくらキャラクターが歳をとるからといって、やたらと老けこませるわけにはいかないのだ。
◆明らかに人間性を超越しようとしている
『昭和元禄落語心中』の八雲役は、背筋が凍るような、どこか人間的な存在を超えた化け物めいたところがあった。あるいは2021年に出演する『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』(テレビ朝日)では、劇中ドラマという形式ながら、人ではないドラキュラ教師を演じていた。
ドラキュラつながりでいうと、第94回アカデミー賞作品賞に日本映画として初めてノミネートされた『ドライブ・マイ・カー』(2021年)では、吸血鬼的な表情をする強烈な場面があった。岡田演じる人気俳優と西島秀俊扮する演出家との会話場面である。
夜の車内。岡田の目元が怪しく光る。薄暗い照明の中でカメラを向いて浮かび上がる表情は、人間離れした何者かの形相だった。『虎に翼』の航一役からえらく飛躍した話題に思われるかもしれないが、ある時点からの岡田将生は明らかに人間性を超越する域に達しようとして、新たな役柄に挑んでいる節がある。