ほんとうにこの人の存在感は独特。特に演技らしい演技はしていないようなフワフワした感じなのに、その実、画面上にとてつもない存在感で粒だち、浮き上がる才人。
◆駆け足ひとつで理解させる
山中監督は、唐田の使い方をよーくわかってるなと思う。ではNetflixで独占配信されている『極悪女王』でも抜群の存在感で画面におさまっている唐田を白石和彌監督はどう演出しているだろうか?
第1話の初登場は、地下鉄駅の出口階段を駆け上がってくる姿が捉えられる。あらゆる毒素をデトックスしたあとみたいなすっきり精悍な表情の唐田が、こうして階段を上がってくるだけでいい。
階段を上がったあとは、単純に下って、駆け足でいい。単純な動作と動線移動だ。やっぱり白石監督も使い方をわかっている。唐田が演じるのは、ゆりやんレトリィバァ扮する主人公・松本香とともに女子プロレスラーを目指す長与千種。全日女子プロレスのオーディションを受けるために上京してきた千種のキャラクター性を唐田は、わずかな駆け足ひとつで理解させる。
◆唐田えりかはなぜ印象に残るのか?
そう、唐田は演じる役柄をつかむのがうまい俳優なのだ。俳優ならそれは当たり前だろと思われるかもしれないが、役柄をつかむとは、単に役になりきるだとか、俳優本人の側に役を引き寄せるとか、そういうことではない。あるいは、長与千種役の体格に近づけるために体重を10キロ増量する努力や坊主にする役作りもまた別の話だ。
役柄をつかむとは、その役が俳優その人の身体を通じてだけ、今そこに確かに存在しているという説得力のことだ。唐田の場合、変に内面的に複雑な演技になることなく、俳優としての素材を作品にまるまる提供しながら、物語世界を生きる役を生々しく立ち上がらせている。
だからたとえわずかな出演場面であっても、彼女と彼女が演じる役が印象に残る。こうした柔軟な才能を持つ女性俳優が現在の日本のエンタメ界にいったい、何人くらいいるのだろう?