軍役と、後を引く記憶・感情
マイケル・ケインが演じたバーナードは、退役軍人だ。ことあるごとに戦場の記憶がフラッシュバックし、何年経っても後を引く感情は拭い去れていない。人生経験も長いが、彼や従軍経験のある退役軍人たちは、その長い人生を過ごす間ずっと、戦争の恐怖や哀しみの記憶が脳裏にあったのだ。
“時間が解決する”“時間とともに薄れる”などと言われる感情もあるが、逆に簡単に薄れないような感情・記憶は“時間とともに熟成される”のかもしれない。バーナードには、ふと脆さや無力感を漂わせる瞬間がある。どんなに“普通”に振る舞っても、楽しい空気に飛び込んでも、避けられない感情に襲われることがあることが窺える。発狂するわけではない。泣き出すわけでもない。それでも、バーナードが抗いようのない感情の波に襲われ、何もできずに耐えているのだと感じられる瞬間、改めてマイケル・ケインという名優の表現力を実感した。
終わりへ向かうということ
今作の主人公は長年の老夫婦。表情の機微で互いを当然に理解し、互いを当然に気遣い、時には互いに甘える。観客は(従軍時代の回想を除けば)彼らの数日間しか目撃していないのに、これまでのふたりの生活を背景として感じられるようなふたりの心の交流がすばらしい。
人生は平等に終わりに向かっていく。“あと少し”の中、短い言葉や無言でもある程度通じ合う関係性のふたりが、敢えてパートナーのために言葉を紡ぎ、相手に伝える。ありきたりな言葉も、この関係性と、この時期・年齢に発するとき、特別な意味や力、愛情を持つ。温かく優しく愛にあふれる一方で、寂しく切なく苦悩にもあふれる、人間味・人生の最終章を描く実話が、見事に心に染み渡った。
レジェンドふたりが丁寧に紡ぎ上げる、シンプルかつ深みのある1作『2度目のはなればなれ』は10月11日(金)より公開中。