転売屋を専業にする以前に働いていたクリーニング工場では、社長から「才能と忠誠心があるから、管理職としてやっていけるよ」などと言われていたりもするので、客観的にはまともな社会性があるのだろう。普段は口数が少ないのだが、限定品のフィギュアを買い占める際の交渉では口はむしろ達者で、詐欺師のようにも見える。

 この映画はフィクションだが、「現実の転売屋もこうなのかもしれない」と想像がおよぶだろう。描かれるのはあくまで転売屋の日常と、それから起こる悪夢のような事態であるが、転売屋という職業の良し悪しを単純にジャッジしたりしない。だからこそ、転売ヤーという蔑称に収めるだけではわからない、その仕事や人間性を客観的に認識できるというのは、本作の大きな意義だ。

◆菅田将暉の「相手を見下す」演技の上手さ

『Cloud クラウド』
 そんな真面目で普通、社会性もある青年が主人公ではありつつも、そこはかとなく「相手を見下す」イヤな面が、セリフ回しはもとより、菅田将暉の演技力でこそ表現されているのも、本作の見どころだ。

 たとえば、劇中で菅田将暉は、転売業の先輩である窪田正孝に対して、あからさまに先輩をこき下ろすことはしないけど、相手には「コイツ俺のこと舐めてるな」「正直俺のこと好きじゃないだろうな」と伝わるよう意識しながら演じていたそうだ。

 さらに、自分の転売業が軌道に乗った後に先輩に再会した時には、「ひとりじゃとても手が回らない状態です。どこかにいい助手っていないですかね。あ、そうだ、先輩みたいなベテランにも参加してもらおうかな」などと「マウント」を取ったりしていて、なんともイヤらしい。

 菅田将暉というその人から、いい意味での「野性味」や「不良性」を感じられるため、ストレートにその要素を打ち出した、攻撃的だったり粗野だったり、主体性がある役に大いにハマる。対して、今回のように「表向きは普通」だからこそ、ちょっとした言動に毒を込めていて、相手を見下す態度が透けて見えてしまう役にも合うというのは、意外でもあり、納得もできたのだ。