3つの生き方や2項対立に世の摂理をうっすら感じると同時に、演劇界の神のような野田に向かって自論を臆することなく提案する松本の姿にもまた世界の一端が見えるような気がするのである。

◆『どうする家康』のあとで野田の舞台に出た必然

混沌(こんとん)とした世界のなかで誰も失敗しない完璧さを求める松本潤に、筆者は昨年彼が演じた大河ドラマ『どうする家康』(NHK 23年)の徳川家康を思うのである。

『どうする家康 前編』 (NHK大河ドラマ・ガイド)NHK出版
『どうする家康 前編』 (NHK大河ドラマ・ガイド)NHK出版
家康は子どもの頃からずっと戦争の悲惨さを目の当たりにし続けたすえ、豊臣との最後の決戦・大坂の陣で乱世を終わらせようとする。大砲によって破壊された大坂城の惨状に愕然(がくぜん)としながらも、そこから戦のない江戸幕府が264年もの長きにわたって続いた。その礎を築いたのが家康である。

『正三角関係』はロシアの物語を下敷きにしながら極めて日本の切実すぎる物語なのだが、それをロンドンで上演したら(10月31日〜11月2日)、イギリス人はどう見るだろう。

もしもイギリスの観客が、松本潤は、英国におけるBBCのようなNHKで徳川家康を演じた俳優であるという情報を得たならば、彼が『正三角関係』で演じた役に1本の補助線が引かれるのではないだろうか。

大河の前に、NODAMAPに出るのではなく、大河のあとでNODAMAP に出た必然がそこはかとなくあるように感じてしまうのである。

◆カーテンコールで松本は野田秀樹を

さて、今回の舞台でもうひとつ印象的だったのは、カーテンコール。松本は彼目当てに来た観客たちに作、演出、出演と八面六臂の大活躍をした野田秀樹を紹介するような仕草をしてみせる。僕の大好きな野田秀樹さんです、本当の主役は野田さんなんです、というように。

それがなんともいい感じだった。だって、例えば、野田秀樹のスローモーションの動きは、出演者たちの誰よりも身体に負荷をかけて見えて年季の違いを感じさせるのである。