あるいは、東京地方裁判所所長、続いて最高裁判所第5代長官になった桂場等一郎(松山ケンイチ)が、第1週第1回から一貫して厳粛な存在感を固定し続け、ひとり所長室や長官室の室内場面で孤独な演技を極めた功績をたたえなければならない。この桂場の存在があったなら、もう他に余計な言葉なんて全然必要ない。背景の説明だって不要だ。

『虎に翼』©︎NHK
 最終週第129回、退官した桂場が、大好きなあんこ団子をゆっくり口に運び、寅子に見つめられながらその味を噛み締める姿は、特に際立つわけでもないのに、視聴者を納得させてしまう力がある。

 社会派かどうか。政治的かどうか。長官という本作でもっとも社会的な地位があり、政治的立場に置かれた人物が、実は一番それに縛られずに映像表現に純粋に奉仕する役割だったことこそ、特筆すべき事実だと筆者は思う。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu