あるいは、「なるほど」が常に一定の穏やかさを伴いながら、ときにミステリアスな雰囲気を醸す航一のキャラクター性が、半沢直樹と類似する点はほとんど見当たらない。にもかかわらず、書類の束を叩きつけたあとの彼は、明らかに半沢直樹的な怒り一辺倒のベクトルへ力を込める。
たぶん生まれて初めての怒りの発露であり、一世一代の大怒声だったのだろう。しかも長官相手。第124回ラスト、長官室をノックする瞬間の航一は、やや緊張気味に息を整えていた。
直前の場面で裁判官を辞めたいと激白した長男・星朋一(井上祐貴)が左遷的に異動させられたことでスイッチが入ったのか。とはいえ、あれだけ繊細な航一の役柄を通じて数々の名場面(特に第18週第90回での雪景色!)を生んできた岡田将生が、怒りの顔芸とも形容できる半沢直樹的な振る舞いをするだなんて。どうも信じられないのだ。
◆どうして一点集中したのか
吉田恵里香による脚本にどうト書きが書かれているかはわからないけれど、岡田の演技プランがどうして怒りの感情だけをアウトプットすることに一点集中したのかが気になる。
確かに、航一の長女である吉川のどか(尾崎真花)がどこの馬の骨かもわからない画家の恋人・吉川誠也(松澤匠)を婚約者として実家に連れてきた第24週第119回での航一は、えらく取り乱してそれまでの場面でもっともエモーショナルだった。
それだけならまぁまだ航一の感情の起伏として理解の範疇だが、たかだか一瞬の場面だとしても、あの顔芸の怒声は、正直なところ、星航一役のすべてをぶち壊していると思う。頑迷な性格から強権を振るうようになった桂場の暴走をよくぞとめてくれた!と、進言した航一に対して素直に拍手すべきなのか……。
◆怒声と怒号を込める岡田将生
いや、やっぱりここは審議である。この怒声問題を精査するためにはうってつけの演技をひとつ、岡田の過去作から引っ張りだしてみたいと思う。それはまさに『半沢直樹』と同じ日曜劇場ドラマ作品であり、出演俳優たちが『半沢直樹』テイストの顔芸的怒号をスタンダード化するきっかけともいえそうな『小さな巨人』(TBS、2017年)である。