時代設定は1955年。『虎に翼』で航一が登場している昭和20年代の少しあとだが、ほとんど同時代の人物である。咲太郎の髪型は、何とリーゼントスタイル。これが放送時大きな話題になった。

 この時代のリーゼントは七三分けが基本であり、それは戦後のカジュアルなアメリカンスタイルであるアプレゲール(フランス語で戦後派の意味、通称:アプレ)にとって、ちょい悪の気っ風を象徴するスタイルの決め手。

 昭和20年代のメンズヘアースタイルだとアプレの他に、アメリカ兵の短髪を模したGIカットや石原慎太郎の慎太郎刈りなどが代表的だが、無軌道な人物像の咲太郎は(少し時代はズレるにしろ)おそらくアプレ風の若者として造形されていると考えられる。

◆あえて現代的にスタイリングされている理由

『虎に翼』© NHK
 つまり『なつぞら』での岡田は、ある程度時代考証に基づいてスタイリングされたビジュアルだったのだ。『虎に翼』の航一は若い頃でさえアプレではなかったと思うし、不良性の欠片もなく、アメリカナイズされているわけでもない。

 不良性なら、戦災孤児だった身の上から猪爪家の預かりの身になった道男(和田庵)や、アメリカンならライアンこと秘書課長・久藤頼安(沢村一樹)が、ふたりとも完璧な七三分けスタイルなのが意外でもある。

 航一の髪型があえて現代的にスタイリングされている理由が何かあるはずだ。それが真の意味で読み解かれるべき回が実はある。第17週第85回の麻雀会で弁護士・杉田太郎(高橋克実)を抱きしめる航一が何度も口にした「ごめんなさい」。その理由が明かされる場面である。

 第18週第90回、仕事を切り上げた寅子たちが喫茶・ライトハウスにやってくる。そこで航一は戦中に内閣が設置した総力戦研究所の研究生だったことを初めて告白する。航一の告白とともに机上演習場面が回想される。

 航一の「ごめんなさい」は、机上演習で日本敗戦がわかっていたはずなのに戦争をとめられなかったことへの自責の念が込められたものなのだが、回想の中の航一ははっきりと七三分けだと気づく。