それまでの時期は本当に息をするのもつらかったけれど、それを経て、「ご飯をおいしく食べる」といういつもの行動が実は「かけがえのない生」であると気づけたわたしは、もしかしたら幸せ者なのかもしれません。

◆「人って死ぬんだ」と本当の意味で実感した

 そして、乳がんの治療も「生きるため」に取り組んだこと。乳がんを患ったときは確実に「死」を身近に感じました。みんな寿命が来たら確実に死ぬのに、それでも自分が死ぬことを実感するってなかなかできないと思います。けれど乳がんと診断されたとき「ああ、このまま放っておいたら死ぬんだ、わたし。人って本当に死ぬんだな」と思ったのです。

 リアルに死を感じたことで、生きていることの貴重さがわかりました。治療中にメンタルをやられ「生きていることがつらい」と闇をさまよっていた期間は、「せっかく治療をして生かしてもらっているのに」と、自分の中の矛盾を責め、罪悪感もありました。

 だからこそ、動けるようになってきたときに「これからの人生は思い切り楽しんで生きよう」と誓いました。美味しいものを思い切り味わって、やりたいことを思い切りやろう。自分が思い描いていることを叶えるために思い切り頑張って、どこまで叶うかやってみよう、とどんどん意欲的になっていきました。

 やっとごはんを美味しく感じられるようになったのだから、家でも美味しいごはんを食べようと、あれこれレシピを試して料理をしはじめました。闘病で減った10キロを取り戻すどころか上げ止まらず。元の体重を通り過ぎてグングン増加してきました。定期検査で先生に「太りすぎはがんのリスクだから気を付けて!」と言われる始末。

 けれど、先生もわたしの不調は見ていたので「先生、ご飯がおいしくなったんです!」と伝えると「それは本当によかったね」と喜んでくれました。

◆美容室へ行き、ウィッグを卒業。お話会を自主開催

乳がんお話会のとき
乳がんお話会のとき
 少し元気になり、髪も伸びてウィッグからも卒業しました。伸びた髪を美容室でカットし、人生初のベリーショートに。久しぶりにウィッグなしで外に出て、頭も気分もスッキリ。毎日のウィッグで慣れてはいましたが、やはり締め付けや暑苦しさから解放されると全然気分が違います。わたしの場合はもともとの毛量が多く太かったのでぐんぐん髪が生えてきて、抗がん剤終了後、半年くらいでウィッグを卒業できました。