カフェでアルバイト経験があるとまぱんさんですが、当時、いきなり歯が数本抜けるという事態に。原因はストレス。

「社会に適応できず身が滅び、おかっぱモンスター誕生」と自分をギャグのオブラートで包みつつ、苦手な先輩の幻影まで見てしまう始末。

ストレスを自虐的に扱って漫画に昇華させるという根性は立派ですが、「半年でバイトを辞めた」のは大正解でしょう。

「生きられないッ!」と自覚して、叫びながら走って逃げるのは自分を守る方法としてアリです。不器用にしか生きられないからこそ、他人様の痛みにも敏感になれるのです。

ママ友の輪が苦手でも、自分の娘を使って「娘と何かをしている人」を演じてやりすごす。おかしな人に思われないように、必死に取り繕(つくろ)うとまぱんさんに、いとおしさを感じずにはいられません。

◆夢も希望もない、はずがない

数々のアルバイトを経て、編集プロダクションに就職が決まったとまぱんさん。連日終電帰りの激務が続きます。

「うちの会社を辞めた女性社員はどんどんきれいになっていくんだよねぇ」と社長が言う環境で、終電間際、ラーメンと高菜チャーハンで腹を満たしていました。仕事と体重が増える中、出会いは突然やってくるのです。

「僕の友達紹介しますよ!!」という後輩の一言に、とまぱんさんは頷(うなず)きました。結果、その男性がのちの夫になり、娘が生まれます。

夫も娘も、母も、個性的で微笑ましく、不器用な人ばかり。不器用なのは、笑って人生を楽しもうとする、頑張りの裏返しなのかもしれません。

「わかる、わかる」と、苦笑しつつもあたたかい気持ちになる、とまぱん人生劇場は何度読んでも味わい深いのです。

<文/森美樹>

【森美樹】

小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx