同様に忘れられているのが、阪神・長崎慶一と巨人・駒田徳広のヘディングだろう。当時こそ騒がれたものの、やはり数年で話題に上らなくなっている。チャーミングな口ひげで「マリオ」の愛称で知られた大洋・カルロス・ポンセもまたヘディング経験者のひとりだ。

 では、なぜ宇野のヘディングだけがここまで人々の記憶に残っているのか。

 まずは平凡な内野フライであったことが大きいだろう。山本や長崎のヘディングは外野後方への大きな当たりであり、難しい打球だった。実際、長崎はジャンピングキャッチを試みてヘディングに至っており、凡ミスというよりチャレンジの結果という意味合いが強い。その意味で、宇野のショートフライは、安心感からのギャップが大きかったといえそうだ。

 加えて、宇野のヘディングは「跳ね方」が素晴らしかった。頭部を直撃したボールはポーンと大きく跳ね、外野の奥深くまで転がっていった。そしてそのヘディングが、そのまま失点につながっている。そのヘディング後のなすすべのなさ、身の置き場のなさも含め、コミカルに見える要素が幾重にも重なっていたということだ。

 そして何より、プロ野球そのものがテレビの花形だった時代の話である。宇野はヘディング事件の後、本塁打王1回、ベストナイン3回を獲得する名選手となった。その明るいキャラクターと豪快な三振は、お茶の間に広く浸透していた。

 願わくば、今回の佐藤輝のヘディングがプロ野球人気復活の第一歩となってほしいところだ。