実は清家を操っていた黒幕など存在しなかったのだ。強いて言えば、清家を操っていたのは清家自身の意志だった。「ぼくには、ぼくがわからない」という清家の言葉どおり、清家は“本当の自分”を追い求めて人生をさまよう。その半面、清家は己を利用する人々をひどく憎んでおり、人生の過程で自身を見くびってきた人間である浩子・鈴木・美和子を排除してきた。

 清家は父親・和田島譲りの演技力・学習吸収力を持つゆえ、周囲から利用される運命をたどったわけだが、ただひたすらに真実の愛、そして友情を欲していたのではないだろうか。浩子が清家に汚れのない愛情を注いでいれば、鈴木が打算なしで清家と青春を過ごしていれば、清家は真っ当な使命感を抱き政治家を志したのかもしれない。清家が偽りの笑顔ではなく、心からの笑顔で有権者の前に立ち国を変えていく。そんな世界線を想像してしまうほど、清家は底知れない魅力のあるキャラクターだと思う。

 最終回の最終盤で清家は晴れて内閣総理大臣に就任したわけだが、マトリョーシカのごとく入れ子可能な空っぽの人間のまま。その一方、道上は独裁政治に走りかねない清家を見守る使命感を持ち、鈴木は幼少期からの夢である政治家になるため、父親姓の「宇野俊哉」として区議会議員選挙に立候補した。「自分がやりたいことはなにか」というテーマを突きつめようとしているのは清家だけではない。道上、鈴木、そして現代を生きる人たちも同じ境遇にいるのだ。清家の人生は他人事ではない、だからこそ我々も日々を真剣に生きていかなければならない。そんなことを突きつけられたフィナーレだった。

■番組情報
金曜ドラマ『笑うマトリョーシカ』
TBS系毎週金曜22時~

出演:水川あさみ、玉山鉄二、櫻井翔、丸山智己、和田正人、渡辺大、曽田陵介、渡辺いっけい、高岡早紀、ほか

プロデューサー:橋本芙美
演出:岩田和行、城宝秀則、小林義則、朝比奈陽子
原作:早見和真「笑うマトリョーシカ」(文春文庫)
脚本:いずみ吉紘、神田優、福田昌平
音楽:大間々昂
主題歌:由薫「Sunshade」(Polydor Records)
政治監修:須山義正、武田一顕
法律監修:岡本直也
児童福祉監修:永野咲
警察監修:石坂隆昌
医療監修:中澤暁雄
編成:杉田彩佳
製作:共同テレビ、TBS

公式サイト:tbs.co.jp/waraumatryoshka_tbs/