そんな私にとって『サユリ』はまさに我が意を得たりな作品だ。「地獄送りにしてやるんじゃ!」と叫ぶ強すぎる“ババア”の貫禄(かんろく)にもう拍手喝采。いいぞ、もっとやれ。

◆敬意をもって“ババア”と呼びたい。生きている人間舐めんなよ

映画『サユリ』
©2024「サユリ」製作委員会
 中古ではあるものの、念願の一戸建てマイホームへと引っ越した神木家。しかし、家族七人の幸せな日常は長くは続かず、次々と不幸な出来事が一家に降りかかる。

 一人、また一人と家族の命が奪われていくなか、ついに認知症を患っていたはずの祖母が覚醒。生き残った長男と共に、家族を殺したこの家に住まう怪異への復讐を誓う。

映画『サユリ』
©2024「サユリ」製作委員会
 前半の正統派Jホラーな容赦のない描写の恐怖と言ったら。仲の良い七人家族の食卓が和やかだからこそ、理不尽に奪われた平穏な日常のかけがえのなさを痛感し、生存者二人の燃え滾(たぎ)るような怒りに共感せざるを得ない。

 後半の怒涛の展開こそがこの映画の真骨頂。ノールールに暴力を振るい無双する女傑たる祖母のことは、おばあちゃん、とかではなく敬意をもって“ババア”と呼びたい。生きている人間舐めんなよ、というような力強いメッセージを感じて鑑賞後なんだか勇気が湧いてきた。

 最近の私、暑さにへばってちょっと弱っていたみたい。部屋を綺麗にしてたくさん食べて、命を濃くしてしっかり生きる。負けてたまるか。

『サユリ』

監督:白石晃士 原作:押切蓮介「サユリ 完全版」(幻冬舎コミックス刊) 脚本:安里麻里、白石晃士 出演:南出凌嘉、根岸季衣、近藤華、梶原 善、占部房子、きたろう、森田 想、猪股怜生ほか 配給:ショウゲート 製作プロダクション:東北新社 2024年/日本/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/108分/R15+ ©2024「サユリ」製作委員会/押切蓮介/幻冬舎コミックス

<文/宇垣美里>

映画『サユリ』
©2024「サユリ」製作委員会