ブラックな労働網を上からみているようで、彼らもまた網のなかにとりこまれているのではないかというホラー感覚を、満島と岡田がうまい塩梅で醸(かも)してみせる。

◆岡田将生は見た目と中身のギャップを演じるとき輝く

塚原、野木、新井チームの作品に参加するのが念願だったという岡田は公式サイトでこうコメントしている。

「どんな役でも参加したいと熱望していたのがようやく叶い、そしてとても難しい役を頂き、現場では常に頭を抱えながら監督と満島さんと、この難しい脚本に臨ませてもらいました。

脚本の野木さんとは以前お仕事させてもらってからだいぶ時間が空いたのですが、この脚本の密度が濃すぎて重たい何かを渡された感じでした。

満島さんも10年以上ぶりでして、この方の前で嘘がつけない。見透かされる。

こんなにも自由に、嘘がなく、カメラの前に立つ姿は見惚れてしまうほど素敵でした。

この映画から皆さんが受け取る、感じ取るものは様々だと思いますが、こんなにもワクワクする映画もないかと思われます」

同じく公式サイトで満島は、岡田のことをこう表している。

「共演は14年ぶりでしょうか? やっぱり岡田将生さんは不思議な佇まいを持つ俳優さんで、彼にしか出せない品性とおかしみをとても素敵に感じます。柔らかいのに男性らしい、岡田さんの背中に何度か助けて貰いました。静かなるサポートに、感謝しています」

岡田将生はあまりに見た目が端正なので、どうしてもちょっと特異な役を任されることが多くなるのだが、見た目と中身のギャップや、見た目に隠された秘密みたいなものを演じるときにもとても輝く。

◆朝ドラでの役もまた、見た目と中身の相違がおもしろい

岡田は現在、出演中の朝ドラこと連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)では、ヒロイン寅子(伊藤沙莉)と事実婚のパートナーとなった星航一を演じている。彼もまた、見た目と中身の相違がおもしろい。

『ラストマイル』ではすきっと聡明そうな額を見せているが、『虎に翼』では当初は目まで隠れそうに前髪で覆っていて、現在はちょっと分けて少し額がのぞき、その前髪に白髪が数本をつくり、老け感を出している。前髪によってずいぶん印象が違う。

『虎に翼』の航一は、戦前、総力戦研究所に所属し、日本は戦争したらどうなるかシミュレーションしていた過去を後ろめたく思っているという設定で、8月15日の終戦の日生まれの岡田が、戦争について思うところのある役というのは運命的だなと感じさせる。

航一は50代で大学生の子供がふたりもいる設定だが、実年齢・30代の岡田とは三兄妹に見えてしまう。この若見えパパという感じや、一見優男ながら、重たい過去と悲しみを背負っている星航一の魅力を岡田将生は存分に演じている。つまり人は見かけによらない。

◆『ドライブ・マイ・カー』では屈指の名場面も

朝ドラと平行して深夜に放送中のドラマ24『錦糸町パラダイス~渋谷から一本~』(テレビ東京)では岡田は表向きは地元住民や再開発が進み増えた観光客向けのフリーペーパーのライター、実は世の悪事を暴くために証拠の動画や画像を二次元コードで町中にばらまいているという、これもまた2面性のある人物。

黒尽くめで口数少なく、部屋でキーボードを叩いているあやしさ満載である。

ドライブ・マイ・カー
岡田の代表作でカンヌ国際映画祭で4冠、米アカデミー賞で国際長編映画賞作受賞作『ドライブ・マイ・カー』のちょっとミステリアスな俳優役は最たるものであろう。