これは影木さんが実家に戻る時にした決意で、揺るぎないものでした。つまり「別居婚」が前提の婚活だったのです。

影木栄貴さんウェディングフォト
ウェディングドレスに身を包む影木栄貴さん
「別居婚」を選んだもうひとつの理由は、影木さんの職業にあります。漫画家ですから、どうしてもひとりで集中する時間が必要になります。

影木さんは50歳、夫は51歳。ひとりが長い者同士、いきなり一緒に生活するのも窮屈(きゅうくつ)かもしれません。実際、ふたりの生活スタイルはかなり違うといいます。

夫にとっても好都合だった別居婚ですが、影木さんの実家から徒歩5分のところに引っ越してくれました。まさにスープの冷めない距離。必要な時にはそばにいてくれるし、恋人気分のまま結婚生活を送れるのです。

「財布は分けるべき」「仕事が第一主義」など、影木さんの条件はまだありましたが、彼はすべて飲んでくれました。

お金、生活スタイル、家族のこと、事細かく話し合った末に結論を出したのです。これは結婚のその先、病める時も健やかなる時も、お互いを最良で最高のパートナーとして過ごすために、必須なベースではないでしょうか。

結婚は、甘いだけの夢ではありません。本書には、大人の女性が苦心してつかみとった世界でひとつだけの結婚が描かれているのです。

<文/森美樹>

【森美樹】

小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx