「源泉から木の樋で流すことで、温度を適温に下げて浴室に注いでいます」

なるほど、ちょうど窓の外を見ると、長細い木の桶がずらりと順に並んでいて、そこを源泉がリレーしながら流れている。そうやって温度を調整し、加水せずに源泉のまま流しているのだ。湯船もぼくにとってすごく適温であった。

そして、ぼくはたとえば温泉で肌がすべすべになるって、今までちょっとした幻想だと思っていた。肌がすべすべになるということが、事実なのか実感なのか思い込みなのかよくわからなかった。

しかし、湯船から上がって、鏡を見たときに、肌がすべすべのツヤツヤでたまげた。幻想じゃないんだ、と感じたのは人生で初めてかもしれない。それぐらい、鏡で自分の肌を見て思った。いやあ、なんだか、うさんくさくなってしまう。でも、これはほかのWeb記事や、Googleのレビューを一切見ずに、自分の感想だけで書いている。

これからすぐに服を着て、カブの防具をつけて、また汗をかくかもしれないと思うと、とても切なくなった。ああ、恋しくなるいい湯だった。

(仁科勝介)

写真家プロフィール

仁科勝介(Katsusuke Nishina にしなかつすけ)/かつお
写真家として活動。1996年、岡山県倉敷市生まれ。広島大学在学中に、日本の全1741の市町村を巡る。
『ふるさとの手帖』(KADOKAWA)、『環遊日本摩托車日記(翻訳|邱香凝氏)』(日出出版)をはじめ、2022年には『どこで暮らしても』(自費出版)を刊行。
旧市町村一周の旅『ふるさとの手帖』:https://katsuo247.jp
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