◆自分の人生を見失わないで

――介護をしている方は、どんな風に辛い気持ちを乗り越えているのでしょうか。

吉田:達観している方が多く、悩みの先にいるような印象を受けました。「どんな環境を与えられても、これで生きていくしか仕方ないんだよ」という考え方に感銘を受けました。

――主人公に対して「自分の人生を見失わないで」というアドバイスがありましたが、吉田さんはどう思いますか?

吉田:これは私自身の気持ちなんです。読者のメッセージを読むと、実生活で介護をしていた女性が介護系の進路に進んだケースが圧倒的に多いんです。「家族の役に立つから」という理由が多かったと思います。

 介護の道を選ぶことは素晴らしいことですが、「もしかしたら本当は他にやりたかったことがあるんじゃないかな」ということが少し気になりました。

 実際に「介護のために進路や好きな仕事をすることを諦めました」という声が結構ありましたし、挑戦してみたいことが皆さんあったのかもしれない。「皆が好きな進路に進めたらいいな」という思いを込めて描きました。

 その点では、私の母は子供の進路に一切口を出さなかったです。「女の子だから家に残って父の介護をしてほしい」ということも全く無かったので、私は本当に恵まれていたんだなと思いました。

吉田いらこ『夫がわたしを忘れる日まで』(KADOKAWA)
吉田いらこ『夫がわたしを忘れる日まで』(KADOKAWA)
――お母様がほとんど1人で介護などをされていたのでしょうか。

吉田:そのことについては、母に対して「私は自分の人生を楽しんでしまった、悪い娘だったかな」という罪悪感がありました。

 でも同時に、親だったら私の母のように「子供には我慢をしてほしくない」と思う人が多いんじゃないかとも思います。