楽しくお付き合いができている、と思っていたのに、気がつけば相手夫婦のしたいことにこちらが巻き込まれるようになり、それを「あなたのために」と言われる。

窮屈(きゅうくつ)なのは、いかにも親切を装って提案してくることで、断るのが申し訳ないと思うと違和感を覚えても我慢して時間を割くしかありません。

悩む女性
写真はイメージです(以下同じ)
田中由美さん(仮名・39歳)は、こんな身勝手な友人夫婦に嫌気がさし、先日お付き合いをやめました。

「あなたのためにって、私は行きたいなんて一言も言っていないのに、押しつけがましさに耐えられなくなりました」と話す田中さんに、事情を聞きました。

◆「ほどよい距離感」と思っていた友人夫婦

田中さんがそのご夫婦と知り合ったのは、お子さんが通う小学校のPTAがきっかけでした。

同じ部で顔を合わせるうちによく話すようになったAさん(43歳)は、「おおらかな雰囲気で話しやすかった」のが最初の印象です。

Aさんの夫も一緒に来ることがあり、三人で話したり行事の手伝いをがんばったり、リラックスして一緒にいられるのがありがたかったと田中さんは振り返ります。

「私がシングルマザーで一人娘を育てていることを、変に『すごい』とか『大変でしょ』とか言わず、『そうなんだね』と普通に受け止めてくれたのがうれしかったです。引け目なくお付き合いができる、と思っていました」

食事するママ友&パパ友
Aさんとランチやお茶を楽しむ間柄になり、それぞれの子どもたちを連れてプールに行くなど、家族ぐるみで楽しい時間を過ごしていたそうです。

みんなで出かけるときはAさんが自分たちが使っているワゴン車を出し、夫が運転してくれることにも感謝していたという田中さん。

「最初の一年くらいは、月に一度PTAの会で会ったときにご飯を食べに行ったり娘を連れてお宅に遊びに行ったりする話が出て、気楽な感じで過ごしていました。向こうの様子が変わったのは、PTAの活動が終わって、約束をしないと顔を合わせない関係が始まってからです」

◆「シングルマザーだから大変よね」と言い出す姿に

あるとき、LINEで服の買い方についてAさんと盛り上がり、「子連れでの買い物は集中できない」「○○に行ってみたいけど、子どもを見ながらだと難しい」と田中さんが送ると

「ひとりで買い物に行くのって恥ずかしいもんね。わかった、うちが付き合ってあげる」とAさんが返してきたそうです。

「恥ずかしいとか言ってないし、一緒に行ってほしいとも書いてないし、付き合って“あげる”という言い方にモヤっとしました。でも、親切心だろうしそのときはありがとうと送って、その週末にみんなでショッピングセンターに行きました」

ところが、田中さんが行きたいと書いたお店には一向に足を向けず、Aさんとその夫は好きなように動き回り、お子さんたちを「ちょっと見ていてもらえる?」と押し付けられた田中さんはみんなの世話が大変で結局何も買えないまま、その日は終わります。

◆いつも“謎の上から目線”で連絡してくる

「疲れきってしまい、娘も楽しくなかったと言うし、この人たちと買い物に行くのはもうやめようと思いました。普段はこんな様子じゃないので、悪い意味のギャップに引いたのもあります」

友人関係に悩む女性
お付き合いは家のなかとかランチくらいにしよう、と思う田中さんでしたが、Aさんはそれからも

「シングルマザーだと子連れでの食事って大変でしょ? ○○でもみんなで行く?」

「親子ふたりだと動物園も厳しいことない? うちがクルマを出すから○○なら連れて行けるよ」

など、“謎の上から目線”で田中さんに連絡してきたそうです。

出会った頃は、シングルマザーである自分に同情など見せてこないことに安心していた田中さんは、Aさんの変わりように「やっぱり既婚だからこちらを下に見るのか」と悲しくなったといいます。

◆無理にでも自分たちに付き合わせようとするママ友

Aさんの誘いは、「ここに行きたいから一緒にどう?」ではなく「あなたは大変だから、ここに行ってあげる」が常でした。

「いかにもこちらのことを思ってって感じてLINEを送ってくるので、断りづらいんですよね。子ども同士は仲がいいので会わせてあげたら楽しく遊べるし、私が我慢すればと思って付き合っていたのですが、私はそこに行きたいなんて口にしてないのになぜか『よかったね』と言われるのがずっとストレスでした」

レストランも出かける先も、田中さんの希望や話し合いで決めるのではなく、Aさんが提案したところ。

「その日は用事があるから」と正直に伝えれば、「え、それが終わってからでもうちはいいけど?」と食い下がってくるのもうんざりだったと田中さんは話します。

◆離れようと決めた。ところが…

「結局、私のためではなく自分たちが行きたいところ、自分たちの用事にこちらを付き合わせたいだけなのだと思い、離れようと決めました」

スマートフォンの着信音が鳴り、画面に浮かぶAさんの名前を見ただけで嫌悪感を覚えるようになった田中さんは、電話には出ずLINEで「忙しくて着信に気づかなくて」と用事を聞き、何かの誘いだったら「その日はもう予定が入っている」と断るようになります。

スマホを見つめる女性
OKしない田中さんに、Aさんは最初「予定は何時まで?」など聞いてきて、「わからない」と答えると「残念。また都合が合うときに会おうね」と返して終わっていたそうです。

「このまま距離ができれば向こうも誘わなくなるだろう」と思っていた田中さんでしたが、あるとき決定的な事態が起こります。

◆思わぬ「恐怖」を味わうはめに

「○○にアウトレットモールがあるんだけど、ひとりじゃなかなか行けないでしょ。どう?」とLINEで送ってきたAさん。

どこまでもこちらのことを勝手に決めつける言葉にカチンときた田中さんは、「別にほしいものはないし、ひとりで行けないところじゃないよ。うちはいいかな」と返します。

「あっそう」とAさんから素っ気ない返事があり、これでやり取りは終わったとそれ以上は何も送りませんでした。

その30分後にスマートフォンが鳴り、画面を見るとAさんの夫。

以前、動物園に行ったときに「何かのときに備えて俺の番号も登録しておいて」と言われて入れたのを思い出し、「さすがに無視はまずいかも」と思い恐る恐る出てみると、

「○○から聞いたけど、アウトレットモール行かないの? 来てくれたら○○や子どもたちも喜ぶんだけど……」と、やはり田中さんの気持ちはいっさい考えない言葉が出てきました。

◆「しばらく連絡は控えて」と伝えた

ストレスが頂点に達した田中さんは

「気持ちはありがたいけれど、いま忙しくて時間を作れないし、しばらく連絡は控えてもらえると助かります」ときっぱり答えたそうです。

「多分、私が怒っていることは声でわかったと思います。向こうはしばらく無言で、『わかった』とだけ返事があり、そのまま切りました」

Aさんの誘いを断ると次にその夫が追い打ちをかけてくる状態に、「夫婦に囲まれているようで本当に怖かったです」と田中さんは言いました。

◆親切に見える「善意の押し付け」

それ以降、Aさんからも夫からも連絡が来ることはなくなり、今は平和に過ごしていると話す田中さん。

「本当に気にかけてくれているのだとしたら、誘い方に出ると思います。最初からシングルマザーだから大変と決めつけて、私の気持ちは聞かないのにこちらのためと言われても、うれしくないです。親切に見せかけた善意の押し付けじゃないですか」

田中さんにとって、その夫婦は「あなたのために」を装って実際は自分たちの用事に付き合わせたいだけの存在。「あのまま付き合っていたら、“部下”にされていた」という恐怖が拭えないといいます。

仕事などの結びつきではなく純粋に好意でつながっている関係なら、接し方は対等でありたいですよね。互いを尊重できない人とのお付き合いは、いずれ破綻するものなのかもしれません。

ただ、もしその夫婦が100%善意のつもりで行動していたら――別の意味で怖いと思いませんか? 皆さんはどう感じたでしょうか。

―あなたの知らない“ヤバい夫婦”―

<文/ひろたかおり>

【ひろたかおり】

恋愛全般・不倫・モラハラ・離婚など男女のさまざまな愛の形を取材してきたライター。男性心理も得意。女性メディアにて多数のコラムを寄稿している。著書に『不倫の清算』(主婦の友社)がある。