◆「テレビをみているみたい」現実感がなかった

――セミフィクションにした理由はあるのでしょうか?

吉田:編集者の方が、私が以前Twitter(旧)にアップした父の病気の漫画を見て、「若年性認知症をテーマに、フィクションとして妻の視点から描いてみませんか」とオファーしてくださったんです。

 私としても「フィクションの方が誰にも遠慮せずに描けるかな」という気持ちがありました。そのまま父の話として描くと、「こう描いたら母や妹が傷つくかな?」と考え込んでしまったかもしれません。

――若年性認知症の初期症状で、頭痛や物忘れが激しくなる描写がありましたが、実際に起こることなのでしょうか。

吉田:初期症状の頭痛については、父の経験をそのまま描きました。父は「頭が痛い」というのを1番強く訴えていました。

 当時は仕事がすごく忙しくて「ストレスが酷い」と聞いていたので、頭痛もそのせいなのかと思い、病気の発覚が少し遅れたのかもしれません。

 物忘れについては、父の場合は初期症状としては全然ありませんでした。そこは若年性認知症の症状について資料を調べて描きました。

――お父様が病気を告知された時の記憶はありますか?

吉田:今振り返ってもすごく不思議なのですが、テレビを見ているような感覚でした。

 母から病名や、「これからもっと酷い病状になるかもしれない」とは聞いていたのですが、それを知ってもどこか他人事のような気がしていました。現実感がなく、私はなかなか受け入れられなかったです。

――ご自身のなかで受け入れられたのはいつごろだったのでしょうか。

吉田:2、3年はかかったかもしれません。毎日を過ごすなかで、「これは現実なんだ」と、ゆっくりと諦めがついていきました。