不妊の可能性に悩み、検査や治療に取り組んでいるカップルは約3組に1組いるといわれています。中でも難しいのが仕事と妊活の両立。株式会社ファミワンの協力のもと、会社に妊活を相談するときにすり合わせした方が良い内容について解説していきます。
女性の活躍が進んでいる今ですが、まだまだ数多くの社会課題があります。その背景にあるのがライフステージの変化。柔軟な働き方が選べず「仕事と妊活の両立の難しさ」を痛感している方も多くいます。
不妊の可能性に悩み、検査や治療に取り組んでいるカップルは約3組に1組いる(国立社会保障・人口問題研究所「第 15 回出生動向基本調査」(2015年6月)より)というデータもあるほどなのに、働きながらの妊活や不妊治療が難しく、会社を辞めるしかない……と追い詰められてしまう女性もいるのが実情なのです。
子どもが欲しいのに、なかなかできない……。
そう悩み始めたら妊活のはじめどきかも。妊活中はお金がかかることや、会社勤めの場合は両立が難しいことなど、悩みもたくさんあります。そんなリアルな妊活実情を知るため、Cinqでは株式会社ファミワン協力の元「仕事と妊活」についての連載をスタート!
今回は、職場に妊活の相談をするとき、何をどのように伝えればよいのかお話しします。
そもそも職場に妊活の相談はした方が良いの?
妊活していることを職場に伝えるのは、勇気が要りますよね。できれば人に知られず妊活したいという方は少なくありません。「妊活しています」と言葉にするのは、「妊娠したくてもできない私」に直面させられることでもありますから。職場の環境や雰囲気、同僚との関係性によっても、話しやすさは人それぞれ違います。
職場に相談した方が良い場合は、「相談することであなたの妊活に何らかのメリットや必然性があるとき」と言えるでしょう。例えば、社内に不妊治療への支援制度がある場合や、体外受精のように受診頻度が高く、勤務の調整をしなければならない場合です。
まずは、職場に何らかの支援制度があるか調べてみましょう。不妊治療と仕事の両立に特化した支援策を講じている企業は、平成29年度の調査※で3割と、まだまだ少ないのが現状です。しかし、厚生労働省は企業に対し、不妊治療と仕事を両立する職場環境づくりのマニュアルを作成するなど、啓もう活動を行っています。令和2年6月には労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法が改正され、不妊治療に対するハラスメント防止対策も事業主の義務として明記されました。これからは不妊治療と仕事の両立支援に取り組む企業が徐々に増えていく希望が持てますね。もしかしたら、あなたの職場でもいつの間にか支援制度が設けられているかもしれません。
治療のために勤務の調整が必要な場合、はじめのうちは「病院へ行くので」「用事があって」など何となく濁してやり過ごすこともできるでしょう。しかし、治療期間が長くなるにつれ、「いよいよ職場に伝えざるを得ない」とか「事実を隠して休みを取り続けるのが心苦しい」と罪悪感にさいなまれる時が来るかもしれません。
そんな時は、職場の中であなたが比較的話しやすい人、信頼できる人を選んで相談しましょう。上司がそれに該当するなら、働き方の相談をしてみましょう。上司が話しにくい人なら、上司への相談の仕方を誰かに相談してみましょう。大切なことは、職場にあなたの味方を作ることです。
※ 厚生労働省:平成29年度「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業」
職場に妊活について相談する人は4割。自身にとって伝える必要があるか考えてみよう!
不妊治療をしていることを職場に伝えている人の割合を調査したデータがあります(1)。女性では、「上司・同僚・人事いずれかに伝えている(伝える予定)」が41%、「一切(伝えない予定)」が47%、「オープンにしている」が7%、「その他(仕事をしていないなど)」が5%でした。
職場に伝えない理由としては、「不妊治療をしていることを知られたくないから」「周囲に気遣いをして欲しくないから」「不妊治療が上手くいかなかった時に職場に居づらいから」「伝えなくても支障がないから」「周囲から理解を得られないと思うから」といったことが挙げられます。これらのことから考えると、不妊治療に対して偏見や誤解を持たれるだろうか・相談しても理解してもらえないのではないか、といった不安があると、職場に伝えにくいということですね。
妊活について会社に伝えるかどうかは、「妊活の状況」×「職場の制度」×「職場環境(妊活への理解度や人間関係)」のかけ合わせで判断することになります。必ずしも職場に伝える必要はなく、ご自身にとって伝える必要があるかどうかで決めて良いことではないでしょうか。
相談するときは、具体的に伝えることを意識して
職場の理解やサポートを得たい場合、勤務調整を上司に相談する場合は、不妊治療の状況を伝える必要があります。
厚労省が不妊治療と仕事の両立を支援する取り組みの一つとして、「不妊治療連絡カード」という書類のフォーマットを公開しています。(https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30b.pdf)
これは不妊治療を受けている方が、職場に不妊治療中であることを伝え、社内の制度を利用する際に使用することを目的として作成したものです。会社に治療状況を提出する必要がある場合は、主治医に依頼すれば書いてもらうことができます。
不妊治療で通院が必要な場合、上司や同僚が理解してくれるか不安ですよね。また、職場の雰囲気やご自分の立場上、不妊治療を受けていると言い出しにくいこともあるでしょう。
最近では「妊活」「不妊治療」という言葉が知られてきているものの、具体的な内容について知識のない方が大勢います。不妊治療の特徴として、次のようなことが挙げられます。
- 実際に受診しないと次の受診日が決まらない
- 頻繁に通院が必要
- お薬を使う場合、人によって副作用の出方が違う(体調が悪くなる人もいるし、そうでない人もいる)
- 受診にかかる時間が予測しにくい
- 受診期間が予測しにくい
このような特徴は、一般的にあまり知られていません。周囲の協力を得たい場合、まずは不妊治療の特徴について知ってもらう必要があるでしょう。また、一口に不妊治療といっても治療方針は人によって様々です。あなたの場合は月にどれくらい受診が必要で、どんなお薬を使うのか、施術やお薬の身体への負担はどれくらいか、主治医と相談してご自身でよく知っておくことが大切です。
お仕事をしながら不妊治療を受ける方は多いので、主治医にお仕事の状況を伝えると、ある程度は受診日や時間帯を調整してもらえる場合があります。お仕事と両立するためにも、主治医とのコミュニケーションのしやすさは病院選びの大切な要素ですね。
次に、周囲の方の立場で考えてみましょう。不妊治療を受けている部下や同僚がいる人の声を聴くと、次のような回答が見られました。
- どうして頻繁に休むのかわからず心配だったが、不妊治療を受けているとわかれば協力できることもあるので、話してもらえてよかった
- どんな治療をしているのかわからないので、どんな協力・配慮が必要なのかわからない
- プライバシーにかかわることなので、どんな治療を受けているのか聞きにくい
- 治療について尋ねると、セクハラやパワハラと捉えられてしまうかもしれないので聞きにくい
ここからわかるのは、上司や同僚の立場の方も、「よくわからない状態では何をどう協力して良いかわからず困ってしまう」ということです。職場(特に上司)へ相談する時、どのような対応をして欲しいのか具体的に伝える必要があるということですね。
上司に相談をする時の具体例
- 妊活のために通院しているが、体のリズムに合わせて受診しなければいけないので、前もって受診日を決められない。早退や急な休みが必要な場合がある
- 通院に必要な時間だけ休めるよう、時間単位で休暇を取らせてほしい
- 治療の影響で体調不良が続いているので、出勤時間を遅らせてほしい
- 不妊治療を受けていることを同僚に知られたくない
具体的な要望を伝えると、職場の方も「これは協力できる」「それは難しいがこういう方法はどうだろうか」とあなたの相談に乗りやすいでしょう。
この時、ご自身がお仕事のために努力している内容を伝えるのもポイントです。例えば、次のような内容です。
- 主治医と相談し、できるだけ勤務に支障が出ないよう受診日や時間を調整している
- 病院の待ち時間で電話対応や書類作成ができる
- 〇〇さんには不妊治療を受けていることを相談している
要望を伝えるだけでなく、あなた自身が努力をしている、あるいはその準備があると伝えることで、職場の方はあなたが頑張っている状況を理解しやすくなります。すると、心情的にも協力しやすくなるかもしれません。
「いつまで続く?」と聞かれた時の切り替えし方
妊活がいつまで続くのか、いちばん知りたいのはあなたご自身ですよね。不妊治療について詳しくない方からすれば、期間の見通しがあれば支援しやすいから、良かれと思って質問したくなってしまうのでしょう。
こればかりは誰にも分らないことですから、正直に「わかりません」と返して良いのではないでしょうか。このような質問をする意図を確認してみても良いでしょう。「いつまで続くかはわからないのですが、なにか期間に関係する問題が起きているのでしょうか?」など、質問してみましょう。また、相手に悪気はなくても当事者にとっては傷付く発言というのはありますよね。傷付いたとき、反射的に良い返しをするのは至難の業です。その場は笑ってごまかす、「主治医に聞いてみます」と回答を先送りにするなども、あなたの心を守るために大切なスキルですよ。
もしもあなたに対して「いつまで続くかわからないんじゃ困っちゃうよ…」など否定的な反応をされた場合、これはプレ・マタニティハラスメントにあたるかもしれません。我慢せず、しかるべき窓口に相談しましょう。