現代に刺さる寓話が日本公開 ©︎ Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Vast 2022
承認欲求モンスターを描く衝撃の北欧映画『シック・オブ・マイセルフ』が10月13日に公開された。
今回はそんなショッキングかつおしゃれな現代の寓話『シック・オブ・マイセルフ』をレビューする。
『シック・オブ・マイセルフ』のあらすじ
シグネの人生は行き詰まっていた。長年、競争関係にあった恋人のトーマスがアーティストとして脚光を浴びると、激しい嫉妬心と焦燥感に駆られたシグネは、自身が注目される「自分らしさ」を手に入れるため、ある違法薬物に手を出す。薬の副作用で入院することとなり、恋人からの関心を勝ち取ったシグネだったが、その欲望はますますエスカレートしていき――。(公式HPより)
奇才が絶賛して注目される
今作は映画界のある奇才が絶賛したことで注目を集めた。
その奇才とはアリ・アスター監督。
長編デビューから2作連続で『ヘレディタリー 継承』『ミッドサマー』というトガった映画を世に送り出し、一気に時の人となったアスター監督だが、アスター監督といえば、ただ怖い演出で怖がらせるだけではなく、家族や恋人といった人間関係における深く沈んでしまうようなリアルなドラマを同時に見せることで人の心もえぐってくる作風が特徴。
そんなアスター監督が絶賛した今作も、彼の作品との共通項を感じさせる納得の作品だ。
今作はそもそもホラー映画ではないが、人の欲求が恐ろしくなるようなシーンは過激に見せてくるし、でも過激なだけではなくそんな人の悲しみや孤独に寄り添い、人間の負の部分を描く複雑なドラマを紡ぐという『シック・オブ・マイセルフ』の作風は、アスター監督が惚れ惚れするのも納得のものである。
止まらない承認欲求
X(旧ツイッター)、インスタ、TikTok…SNSが普及し、社会から注目されることこそ正義。自分が注目されたくて、注目されている人には攻撃や皮肉も集まる。そんな空気が現代社会には漂っている。
承認欲求は強まれば底なし。自分が存在していることを確かめたい。自分がいる意味を感じたい。注目されることだけが価値になり、手段も結果も関係なくなっていく。
最近は、飲食店で行ったイタズラが拡散されて裁判に繋がったり、あえて炎上を狙ったような発言・行動を起こして注目を集めようとするようなことが動画配信者にも芸能人にもチラホラ見られる。もう後には引けない状況になってしまい、ひたすら自分がわからず暴走している人がどれほどいることかと考えさせられる現代だが、『シック・オブ・マイセルフ』はそんな現代にあまりに刺さる寓話のような1作だ。
哀愁漂うおしゃれ映像
そんな今作のもう一つの魅力は、哀愁漂うおしゃれ映像。
ショッキングで現代らしい物語ながら、どこかノスタルジーを感じさせる映像や街並みはとてもおしゃれで、主人公の顔は徐々に怖くなっていくとはいえ、映像にはとても目を惹かれる。
昨年公開された『わたしは最悪。』とも同じ舞台であるオスロの街並みをぜひじっくり味わっていただきたい。
エゴばかりでは身を滅ぼす
今作のシグネの転落っぷりと、それでも承認欲求を捨てられない様子はあまりに痛々しいが、それでもリアル。
「誰でもそううまくはいかないぞ」「知人にも見捨てられ、ただ不幸になるだけかもしれないぞ」「気づいた時には遅いぞ」
今作はそんな風に教えてくれながら、先をかえりみない行動をする人々も増えている現代に警鐘を鳴らすような映画。現代を生きる誰もが観るべき映画の1つといえよう。
承認欲求モンスターの転落と変化の物語『シック・オブ・マイセルフ』は10月13日から公開中。