この「いいね」はアリ?ナシ?
「ストレンジャー・シングス 未知の世界」ウィル役で知られるノア・シュナップが、ムスリムとLGBTQの人々をバカにしたようにも解釈できる動画に「いいね」をしたことで激しい批判に遭い、批判派と擁護派の間で激しい論争に発展している。
ユダヤ系アメリカ人であるシュナップは、過去にイスラエルへの支持を表明し、ハマス支持者を批判したことがあり、イスラエルへの攻撃をソーシャルメディア上で支持する人々のことも批判していた。他の投稿で彼はイスラエルとパレスチナの双方に平和が訪れることを望み、人々がどちらか側につくことは誤りだと言及している。
しかし、イスラム嫌悪的で反LGBTQ的だとも批判されている風刺ビデオにシュナップが「いいね」をしたことで、批判の矛先は動画作成者である作家(ノア・ティシュビー)だけでなく、彼にも向いてしまったのだ。
物議をかもすような動画に反応したシュナップを批判する声も多い一方で、過激派組織ハマスの支持者を批判しただけだと擁護する声もあがっている。
「いいね」をめぐる激しい賛否両論
批判派は「この子は文字通りのシオニスト(※)なんだね。彼がインスタに投稿したり、リポストしていることはまったくもって非常識だよ」「ムカつくクソ野郎だ。こいつのキャリアが『ストレンジャー・シングス』後に破滅することを願ってる」などと、中には口汚くシュナップを罵る投稿まである。
※シオニズム:イスラエルにユダヤ教・イスラエル文化を復興しようとするユダヤ人中心の運動。
「月に1万人以上の人々、4千人以上の子どもたちが一気に殺害されてるのに、それを揶揄(やゆ)するものに『いいね』するなんて、真にイスラム嫌悪的で、ジェノサイド支持的だよ。さらに彼が『いいね』したものは同性愛嫌悪的な投稿でもある。ムカつくね。とはいえ、何よりも哀れなのは、彼自身の自己同一性だけど」と、ゲイであることをカミングアウトしているシュナップが“同性愛嫌悪的な投稿にいいねするなんて”という見方もされているようだ。
しかし、この激しい批判からシュナップを擁護する声もある。あるファンは「この動画はムスリムやクィアをバカにしてるわけじゃない。『クィアの人々を殺すハマスを、支持するクィアの人々』を風刺してるんだ。(動画の意図を間違えるなんて)バカだね」と、動画の意図を履き違えてシュナップを責める人々を短絡的だと擁護した。
シュナップが「いいね」したのはどんな動画?
では、インスタグラムで大きく話題になったその動画とはどのような動画なのか。
ニュース番組のような構成で作られたこの動画では、青とピンクのハデな髪色の男女が語り続ける。女性が「みんな大歓迎だよ、LGBTQH」とハマス(H)を歓迎するかのような語り文句で語り始めると、男性が「ハマス、今トレンドだよね。僕大好きなんだよ」と返す。
その語り口調からは、この男女が「物事をよく知らないミーハー」といったキャラクターとして演じられていることは明らかにわかる。さらに後のセリフでふたりがLGBTQにあてはまる人物であることもわかる。
「川から海(シー)まで、パレスチナ人にフリーを」と韻を踏んで踊るふたり。張り紙を見て「見てよ、このシオニストの毒々しいプロパガンダを。ガザで誘拐事件?ガザってこんな感じなのかしら」と女性が言うと、男性は「いやぁ、ガザがどんなものか知らないけどね」と返す。
「しかもこの子笑顔だよ。人質が笑うわけないじゃん。シオニストって嘘つきね」「ほんと怪しいね」と、写真だけ見て好き勝手に解釈すると、「私たちをバカだと思ってるのかしら」「バカだって?僕は『コロナ後のクィア占星術』を専攻してるんだぜ」と張り紙を剥がし、自分でポイ捨てした張り紙に対して「おえー。ユダヤ人は世界を汚してるな」とぼやくなど、ふたりのやりたい放題が続く。
「別に僕は反ユダヤ主義者じゃない。レイシストなクィアなんだ」「その通り」と誇らしげなふたりは、ガザにいる「BFF」と中継をつなぐ。「大親友(Best Friend Forever)」かと思いきや、「最高の自由戦士(Bestie Freedom Fighter)」ことハマスの兵士だ。
元気に「サラーム・アライクム」とあいさつするふたりに対して兵士は「アライクム・サラーム。アラーはお前ら異教徒を全員殺すだろう」と物騒に返すが、ふたりは気にせず「ありがとう。おしゃれな布で顔を覆ってるね」などとのんきに会話を続ける。
男性が「会えたらいいな、そこに飛んで行きたいよ」といえば兵士に「いつでも来な。屋根から放り投げてやるよ、ホモセクシャルの泥め」と攻撃的に返されるが、「聞いた?屋上パーティに招待してくれたよ」「歓迎ムードね」とのんきな様子は変わらない。
「アメリカにいつでも来てよ」と呼びかけたふたりに対して兵士は「ああ、イスラエルを片付けたら次はアメリカだな」とまたも恐ろしい返しだが、ふたりはやはり「やった!じゃあすぐ会えるわね」「これぞ多文化社会だね」とのことだ。
最終的にはテロリストにまで「おお、アラーよ。お前らはバカだ」「お前らなんか殺す価値もない。銃弾のムダだ」と呆れられ、「バーイ」というあいさつに「ダーイ(死んでしまえ)」と返されるというオチもついている。
動画やシュナップの「いいね」をどう思うかは受け取り手次第
たしかにこの動画ではLGBTQの男女が「ミーハーで無知な人物」として描かれてはいる。そのため、これを「LGBTQをバカにする動画」と解釈する人もいれば、「特定のLGBTQがバカにされているが、全員をバカにしているわけではない」と解釈する人もいるのは自然な流れといえる。
その部分の意図がどうであれ、「何が起きているかをしっかり見ずに、ノリと流れで社会問題を語る人々を批判した動画である」ということはたしかだ。シュナップの「いいね」に何の意図があるかは定かではないが、外からはさまざまな見方ができるだろう。
ノア・シュナップが「多くの人の犠牲」に胸を痛めていることは確か
ちなみにイスラエルーハマス間の争いに関してシュナップが批判を受けるのはこれが初めてではない。
彼はハマスのテロリストによる攻撃が何千もの命を奪った後、イスラエルを支持する力強いメッセージを投稿。「イスラエルの側に立つか、テロリズムの側に立つか。難しい選択ではないだろう。恥を知れ」「暴力ではなく人間性を選ぼう」と、自身のルーツがある国において大量の命が失われたことに対する痛み・嘆きを語っていた。
彼はハマスのテロリストに命を奪われた若いイスラエル人女性の写真を投稿した際に何千人ものファンから批判を受けたが、彼は「僕は若く無垢な女性の命がミュージック・フェスティバルで奪われてしまった事実を撮ったすばらしい写真をリポストしただけ」と説明している。
逆にシュナップは批判の中に不快なコメントを発見。「『パレスチナの解放なんか知るか』『彼女は殺されても仕方ないし、イスラエル人テロリストも全員殺されてもいい』というコメントが来た」「罪のないイスラエルの人々に対する残虐行為を正当化しようとする多くの投稿、集会、署名運動があるけど、これらのコメントがいい例だね」と、テロリストを正当化する人々を激しく批判していた。
シュナップは「ユダヤ人であれとも言わない。イスラエル人であれとも言わない。『こんなことが起きてるのはおかしい』っていう共感力、普遍的な価値観を持ってくれよ」と、主義・信条はともかく、尊い命が失われている現実に胸を痛めているようだ。