カレー沢薫による話題の漫画『なおりはしないが、ましになる』の2巻が発売となりました。

カレー沢薫「なおりはしないが、ましになる (2) 」(ビッグスピリッツコミックススペシャル) 小学館
カレー沢薫「なおりはしないが、ましになる (2) 」(ビッグスピリッツコミックススペシャル) 小学館
部屋を片付けられない・集中力がない・コミュニケーションがとれないなどの問題に長年悩み続けていた作者。発達障害と診断を受け、通院することになりますが、検査だけで6回飛行機に乗ったり、町内会の役員をやることになったり、家族に相談できなかったり、その道のりは前途多難。独特のカレー沢節で語られるエピソードは、笑いと驚きの連続です。

本記事では、第十六章を紹介。後半では『なおりはしないが、ましになる』について詳しくレビューします。

なおりはしないが、ましになる
なおりはしないが、ましになる
なおりはしないが、ましになる
なおりはしないが、ましになる
なおりはしないが、ましになる
なおりはしないが、ましになる
なおりはしないが、ましになる
なおりはしないが、ましになる
◆人気の漫画家・コラムニストのカレー沢薫氏

『なおりはしないが、ましになる』(以下、『なおまし』)の作者は、漫画家・コラムニストのカレー沢薫。

『アンモラル・カスタマイズZ』『バイトのコーメイくん』などのシュールなギャグ漫画だけでなく、キレ味鋭くスピード感のあるエッセイも人気で、多数の連載を抱えている人気作家です。

著:カレー沢 薫 協力:ドネリー美咲「ひとりでしにたい1」 (モーニング KC)講談社
著:カレー沢 薫 協力:ドネリー美咲「ひとりでしにたい1」 (モーニング KC)講談社
2021年、終活ギャグ漫画『ひとりでしにたい』で、第24回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門優秀賞を受賞。風呂場でスープ状になって発見された叔母の死をきっかけに、主人公が孤独死・親の介護・熟年離婚などの問題に真正面からぶつかっていきます。深刻なテーマでありながら、遺品のバイブ問題や母親とのヒップホップ対決などのカレー沢要素満載。なるべくなら見て見ぬふりしたい問題に、笑いながら向き合える作品となっています。

◆性格のせいだと思い長年悩んでいたが、実は発達障害だった

『なおまし』は、コミュニケーションがとれない、興味がないことは一切できない・こだわりが異常に強いなどの「困りごと」を抱える作者自身が主人公。「著しく怠け者で自己中心的な性格なだけかもしれない」と長年思い悩んでいたさまざまな特徴が、実は発達障害の特性だと判明します。

なおりはしないが、ましになる
©カレー沢薫/小学館
「不注意型ADHD(注意欠如、多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)の傾向あり」と診断を受け、中国地方から飛行機で(!)通院を開始。ADHDの薬を処方してもらったり、月一回の集会に参加して同じ発達障害の人たちの体験談を聞くなどして、「ましになる」よう少しずつ手探りで進んでいきます。

「なおまし」の監修を務めるのは、カレー沢氏の主治医でもあるメディカルケア虎ノ門理事長の五十嵐義雄。五十嵐氏の解説コラムにより、作者の体験の背景をより深く知ることができます。

◆カレー沢ワールドは、実は数々の「困りごと」の産物?!

「本筋と全く関係ないのにやたら面白い話」が延々と続くのがカレー沢作品の特徴といえますが、それは「脳内が落ち着きなく、めまぐるしくいろんなことを考えている」という発達障害の特性によるものだとか。作中に頻繁(ひんぱん)に登場する「バフソ」(何を意味するのか、おそらく作者本人もわかっていない様子)も、「思いついたことをすぐ口に出してしまう」からこそ生まれた言葉なのでしょう。

カレー沢薫「なおりはしないが、ましになる 第1集」
怒涛(どとう)のスピード感と表現力で読者を巻き込んでいくカレー沢ワールドは、実は数々の「困りごと」の産物なのかもしれません。

◆家族から発達障害の理解を得る難しさがコミカルに描かれる

『なおまし』2巻で特に印象的なのは、家族に発達障害を説明する難しさを描いた第二十六章「人生はこれから」と、「理解のある彼くん問題」に言及した第二十七章「運命ってあるのかなぁ」の2話。

作者ができないことを引き受けてくれる頼もしい夫。しかし、発達障害の話をすると空気が悪くなってしまい、家庭内ではほぼタブーの話題となってしまいます。

なおりはしないが、ましになる
第二十六章「人生はこれから」より ©カレー沢薫/小学館
人によって特性も対処法も全く違うのに、夫に発達障害に関する本を渡して勉強してくださいというのは、「自力で私の特性を理解し、どう対処すべきか考えてください」と言っているようなものだったと反省する作者。身近な人からの理解を得る難しさがコミカルに描かれています。

◆作中にパートナーが登場するだけで怒られてしまう

それに続く「生きづらい系エッセイに登場する面倒くさい自分をすべて受け入れてくれるパートナー」=「理解のある彼くん」についての考察では、「『年収30円で年貯金100万円する方法!』という指南書を買って、1ページ目に「年収1000万円のパートナーと結婚する」「米と野菜は実家に送ってもらう」と書いてあるようなものなのだろう」と、カレー沢節全開。

作中にパートナーが登場するだけで、「問題を彼くんが解決してるだけ」「不幸ぶるな」と、知らない人たちに怒られてしまうというリアルな悩みも、笑いに変えています。

なおりはしないが、ましになる
第二十七章「運命ってあるのかなぁ」より ©カレー沢薫/小学館
◆当事者にも、そうじゃない人にも

当事者の人たちは「あるある、わかる!」と共感し、そうじゃない人たちは「そうだったんだ!」と新しい発見になる『なおりはしないが、ましになる』。

カレー沢薫「なおりはしないが、ましになる 第1集」(ビッグコミックススペシャル)小学館
カレー沢薫「なおりはしないが、ましになる 第1集」(ビッグコミックススペシャル)小学館
「我々が相手にしているのは『怠け』『性格』などというぬるい相手ではなく『脳みそ』である。ガッツだけで戦うには限界がある」という一文は、現在通院中の人やこれから診察を受ける人たちの励みになるはずです。

ちなみに、2巻のあとがきでは、第一章から登場し続けている「担当」の衝撃の事実が描かれているので、是非チェックしてみてください。

©カレー沢薫/小学館

【カレー沢薫(かれーざわ・かおる)】

1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。主な漫画作品に、『ヤリへん』『やわらかい。課長 起田総司』、コラム集に『負ける技術』『ブスの本懐』『やらない理由』などがある

<文/藍川じゅん>

【藍川じゅん】

80年生。フリーライター。ハンドルネームは永田王。著作に『女の性欲解消日記』(eロマンス新書)など。