◆「スンッ」の定義

『虎に翼』
 そもそもこの「スンッ」とは、明確に定義されているものなのだろうか? 第2回の「スンッ」初登場から見続けていれば、それが明確には定義仕切れない、とても複雑な感情であることは明白である。

 それでも本作の石澤かおるプロデューサーが一応の定義を解説してくれている。曰く、「そうせざるを得ないときがあるけれど、そんな自分が悲しくもある」という感情を成分とする表現なのだと(『NEWS PICKS』インタビューより引用)。

 この定義らしき感情を理解するなら、これは葛藤そのものであり、葛藤を経て駆り立てられるストラッグル(闘争)を温存した状態でもある。だから寅子の場合、「スンッ」に陥ったところから、「はて」の違和感を突きつける、何かきっかけが必要だった。

 それが穂高だったが、伊藤の演技レベルで考えても、「はて」のアウトプットを通じて「スンッ」をチャージ(温存)しているように見える。

 定義が明確ではないからこそ、伊藤の演技がそれを補足する。「スンッ」からの解放運動が視聴者の心に息づくとき、定義はもっと明確になるのではないだろうか?

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu