◆女性の感情を表す「スンッ」

『虎に翼』
『虎に翼』© NHK
『虎に翼』が描く戦前の日本では、外で働く男性に対して女性は内助の功を求められ、献身的な慎ましさを徹底しなければならなかった。本音を外にもらすことなどもってのほか。法律上、「無能力者」とされた時代でもあった。

 女性たちは、無(オフ)の感情を社会的に強いられる。本作ではそれにちゃんと名前がついている。ズバリ、「スンッ」。これは、脚本家の吉田恵里子が編み出した感情表現で、社会に疑問を投げかける寅子の「はて」とともに、この「スンッ」がテーマに関わる重要なフレーズだ。

 そのため当時の女性たちは、感情をひた隠しにして、内面的にも外面的にも「スンッ」が常態化する。第1週第2回では、早くも象徴的な場面が描かれた。寅子の兄・猪爪直道(上川周作)と寅子の親友・花江(森田望智)が結婚することになるのだが、その祝宴の席で寅子の母・猪爪はる(石田ゆり子)など、女性たちは男性を立てるためにろくに自分の意見を言わない。