◆「親なんてこっちから見捨ててやればいい」

 後日、またもちふゆに嫌がらせをされたハルキは、土砂降りの雨の中、深愛の家にやってくる。寒さに震えるハルキを帰すこともできない深愛は、家に上げるのだが、すぐに母が帰宅する。なんとか母の目をごまかすために、ふたりで風呂に入り、ハルキを自分の部屋にかくまう。

 机に飾られている深愛と母親の写真をハルキが見つめる。深愛は眼帯をしている。どうしてこんな写真を飾っているのだろう。食事を持って来た深愛に尋ねると「おかあさんが気に入っている写真だから」。

「泥濘の食卓」
 母が部屋に入ってくるのを心配して、深愛は狭いベッドにハルキと潜り込んだ。

 ハルキは「親に怒られるのがそんなに怖いの?」と尋ねる。「怖いよ。見捨てられることがいちばん怖い」と答える。

「親に見捨てられたっていいじゃないか。親なんてこっちから見捨ててやればいい」

ハルキは自分の素直な気持ちを深愛にぶつけた。深愛は目を見開いてハルキを見つめた。そういう価値観は彼女の中になかったのだ。