◆安田顕、転落する悲劇の悪役。夢に出そうな凄まじさ

安田顕は、第1話からやけに悪代官のように陰湿そうな田沼を熱演していたのだが、最終回も完全にかっさらった。

いろいろ策を講じて政治の中枢をなそうとした田沼だったが、結局、失墜、悪名ばかりが残ったが、やがて時代が変わると田沼政治が懐かしいと思われてしまう皮肉めいた役割で、キャラクターとしては深堀りがいのありそうなおもしろい役だ。

田沼は歴史的観点からしても、かつては賄賂(わいろ)政治を行った悪者のようにも思われていたが、家治を補佐して江戸の貨幣経済の礎を築いた点は高評価とされている。『大奥』では徹底的に策略家で、因果応報、転落する悲劇の悪役となった。燃え盛る大奥のなかで、自刃するときの顔が歌舞伎のにらみのような凄まじさで夢に出そうだった。

昨今、さらりとナチュラルな演技をする人が多いなか、安田のように舞台演技のようなことができる俳優は貴重だ。しかも、型をつくってそこにちゃんと感情を入れていくということができて、その型も感情も尋常じゃなく突き詰めているように感じる。

今回もちょっと笑える域までいってしまい、『大奥』って誰が主役でなんの話だったっけ?と、田沼しか覚えてないほどになってしまうことが良いのか悪いのかよくわからないが、安田顕は時として、「舞台あらし」と呼ばれた北島マヤのようになってしまう俳優なのだ。それが作品を思いがけないものにしてすごくいいのだ。