女性は年齢の変化、加齢とともに妊娠率が下がる、と耳にしたことがある人は多いと思います。では、ここで言う「妊娠率」とは具体的に何を差しているのでしょうか。妊娠と年齢の関係について、日本産科婦人科学会専門医の山中智哉さんが解説します。
不妊治療をおこなっていてよく聞かれる質問に、「私の妊娠率はどれくらいですか?」というものや「今回の治療の妊娠率は何%ですか?」というものがあります。
妊娠を望まれている女性が、「自分にどれくらい妊娠の可能性があるのだろう?」「体外受精までおこなえば、妊娠できるのだろうか」といった思いを抱かれるのは当然だと思います。その妊娠の可能性を考えるとき、多くの方がご自身の年齢について意識されているのではないでしょうか。
不妊治療を始めるときやその過程、そして、残念なことではありますが治療を終了するときにも、「年齢」という要素は関わってきます。
そこで、今回から「年齢と妊娠」に焦点をおきながら、不妊治療や抗加齢医学などについてお話ししていきたいと思います。
■年齢と妊娠率
女性の加齢とともに妊娠率が低下することはよく知られています。
日本産科婦人科学会で報告されている「2012年のART妊娠率・生産率・流産率」を示します。ARTというのは生殖補助医療技術のことで、大きくは体外受精のことを指します。
このグラフより、年齢とともに妊娠率・生産率は低下し、流産率が上昇していることがわかります。こういったデータが、「加齢とともに妊娠率は低下する」という裏付けになっていますが、いくつかの点で注意して考える必要があります。
■「妊娠率=その人が妊娠する確率」ではない?
一般的に「〇〇率」というと、「その人個人が〇〇となる確率」を意味していることが多いと思います。けれど、「妊娠率」は「個人個人が妊娠する確率」を表しているわけではありません。
さきほどのグラフをよく見ますと、それぞれの項目には「/総治療」「/総ET(胚移植)」「/総妊娠」と書かれています。これは分母が「件数(人数)」を表していることになります。
たとえば「妊娠率/総治療」というのは、「体外受精の治療をした全女性のうち、妊娠した女性の数の割合」を示していることになります。
対して、不妊治療を受けられる女性が、「自分の妊娠率はどれくらいか」と質問するとき、それは「その女性個人の妊娠できる確率」を意識してのことだと思います。
したがって、その答えとして、このグラフを引用しながら「あなたの妊娠率は〇〇%です」と答えても、単に「同年齢の女性のうち、体外受精で妊娠した方の割合」を答えただけで、「その方個人の妊娠する確率」を答えていることにはなりません。
■個人の妊娠する確率とは
前項で説明したように、データとして発表されている「妊娠率」は「個人の妊娠する確率」ではありません。けれど、体外受精という治療に限定されたデータではあっても、年齢とともに妊娠される方の割合が少なくなっているということは、個人の妊娠する確率も低くなるということではあります。
それでは、個人の妊娠する確率とはどのように考えればいいのでしょうか。仮に、もともとすべての女性が妊娠する可能性を持っていたとするならば、妊娠する確率は100%ということになります。そして、50歳で妊娠される方は、まれに世界で報告されるような例を除けば、ほぼいらっしゃらないので妊娠する確率は0%といえます。
この100%から0%に至る過程の中で、誰もが年齢を重ねていきますが、中には子宮筋腫や子宮内膜症といった婦人科疾患を発症したり、婦人科疾患以外の病気に罹患することもあります。こういった体に起きること以外にも、喫煙が妊娠に悪影響を及ぼすことがわかっているように、外的な要因が生じることもあります。男性不妊についても、男性の生殖能力が女性の妊娠する確率に影響しているといえます。
つまり、妊娠に対して作用する要素が組み合わさることによって、妊娠の確率を100%から0%に向かう曲線としたときに、緩やかなカーブを描く方もいらっしゃれば、急なカーブを描く方もいらっしゃるということになります。
したがって、「あなたの妊娠する確率は○○%です」ということは言えないのですが、妊娠しにくくなっている原因がもしあるのなら、それを見つけ治療することでマイナスの要素を除去し、さらにプラスの要素を増やしながら最終的に妊娠できるよう導いていくことが不妊治療医の責務であり、結果的にその方の妊娠する確率が100%だった、という結果に到達できるよう努力しています。
年齢の話から少し外れましたが、加齢は妊娠に対してマイナスの影響のある要素のひとつです。寿命に個人差があるように、閉経になる時期にも個人差があります。そういった加齢の個人差にも着目することは大切なことだと考えています。
次回また、この続きをお話ししていきます。
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