◆1:深いキャラ設計で「人間」としての解像度が高い

アラフォーで地味な経理部のOL田中さんと、婚活に励む派遣OL・朱里を中心に登場人物たちが刺激し合って成長する物語『セクシー田中さん』(小学館刊)。この作品を読むだけでも、登場人物たちのキャラクター設計の深さに驚かされます。

主人公・田中京子は、TOEIC900点越えで税理士の資格をもち、経理部のAIと呼ばれる地味な40歳の独身OL。一方で、夜になると妖艶なベリーダンサー「Sali(サリ)」に変貌します。もう一人の主人公・朱里(あかり)は、23歳の派遣OLで、いわゆる「愛され女子」の風貌ですが、内面は実は腹黒く、考え方もドライ。

芦原妃名子『セクシー田中さん(2)』
芦原妃名子『セクシー田中さん(2)』 (フラワーコミックスα)小学館
朱里は、田中さんのベリーダンサーとしての一面を知り“ストイックで、クールで、クレバーでユニークだけど少し影のある……気になって仕方ない人”(セリフ引用:芦原妃名子『セクシー田中さん』/小学館刊より、以下“”内同じ)とファンになります。自分の生き方を貫き、朱里からは、圧倒的な存在として崇められる田中さん。しかし、自己肯定感が低い部分も伺えます。四十肩に見舞われた際には“ダンスが踊れない私なんて、ただのおばさんよ――っ!!!”と号泣し、闇落ち。少女漫画やロマンチックな映画は好きだけど、恋愛には驚くほど消極的。人に関心がないようにみえて、過去の経験から他人とのコミュニケーションにとことん臆病。

ひとりの人間を、ひと言で表現するのは実に難しいことです。いい面もあれば、悪い面もある。調子がよい日もあれば、悪い日もある。対峙する人が変われば、見え方も変わってきます。そんな人間の本質的な部分を前提に、深く丁寧にキャラクターが設計されているからこそ、どの登場人物も「人間」としての解像度がとても高い。読者は、その奇抜な設定ではなく、人間らしく生きる唯一無二のキャラクターに惹かれるのです。