◆人はこわい、でも捨てたものでもない

読んでいる最中、「これは本当にリアルにあった出来事なのか?」と頭を抱えそうになります。世の中の怖さを知ると同時に、まだ捨てたものじゃない人とのつながりも感じます。なんとも不思議で、つい目をそむけたくなる物語ですが、読み終えたあとはなぜか泣けてくるのです。

気にしなければいい。なかったことにすればいい。そんな小さなモヤモヤを、日々抱えて生きている私達。でも春奈は、心に芽生えたモヤモヤから逃げずに、正面きって奮闘しました。そんな春奈に、私は最大級のエールを送りたいのです。なぜなら、今作に登場するさまざまな闇も光も、私達のすぐ隣で起こっているからです。

私達もいつ、春奈と同じ体験をするかわかりません。人生の一寸先は闇、でも光があるからこそ闇もできるのです。何があっても、顔を上げて果敢に生きていかなくてはならない。作者が伝えたかった本当のメッセージは、生きていく怖さではなく、生きていく強さではないでしょうか。一読すれば、あなたもきっと勇気がわいてくるはずです。

<文/森美樹>

【森美樹】

1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx