東京・目黒にあるホテル雅叙園東京の東京都指定有形文化財「百段階段」では、毎年5万人を集める夏の人気企画展「和のあかり」が開催中です。影と光が交錯する今年のテーマは「妖美なおとぎばなし」。期間は2024年9月23日(月)までです。

階段の先にある7つの世界

昭和10年(1935年)に建てられた文化財「百段階段」は、傾斜地に建てられた7棟の木造宴会場を99段の階段がつなぎます。今回の企画展では光の演出や不思議な工芸品の数々が展示され、オリジナルの楽曲や香りなども演出され、夏の夜の夢を思わせる幻想的な体験を楽しめます。

▲7箇所の宴会場を階段廊下がつなぐ、文化財「百段階段」

▲文化財「百段階段」の入口付近に掛かる旅亭「雅楼(みやびろう)」の暖簾(のれん)

今回の企画展は架空のお宿、旅亭「雅楼(みやびろう)」での幻美な体験をイメージしています。幸福と富貴を象徴する牡丹の花がのれんに染め抜かれ、訪れた人々の安寧と長寿を願います。

▲入口ではもの問いたげな猫がお出迎え

浴衣を染めるため伊勢型紙の台紙を真鍮板にエッチングして、円筒の照明器具にした埼玉県越谷市にある中野形染工場。無数に飛び交うトンボの影絵を周囲に投げかけ、柏木技術鋳物研究所が作った小田原風鈴の音色が辺りに響きます。造形作家小澤康磨氏の手による置物の猫は、まるで何かを伝えようとするような眼差しを向けていました。

上へ上へと続く99の階段の先に……

月へ帰ったかぐや姫、羽衣を隠された天女たち。そして滝を昇り龍門をくぐり抜けた鯉だけが龍になという言い伝え。上へ上へと99段の階段を上った先には、天上世界への入口が開いているのかもしれません。

▲日本画家荒木十畝が天井に花鳥図を描いた「十畝の間」には竹灯籠が光ます

竹取物語や羽衣伝説に共通する月の民を表現した竹灯籠。竹林の間伐材などをリサイクルした宮崎県の竹細工専門店「駄bamboo」の竹灯籠は、竹に穿たれた無数の穴から漏れ出る光と大きな月が、光の空間を作り上げています。

▲煌びやかな「漁樵の間」で繰り広げられる陰陽師、安倍晴明の誕生秘話

NHK大河ドラマ『光る君へ』にも登場する安倍晴明の誕生秘話で歌舞伎の演目としても知られる『葛の葉』の一場面。人間の父と白狐の “葛の葉“ を母にもつ安倍晴明が、長じて呪文でカエルを殺すシーンも描かれます。

▲「葛の葉」の衣裳やセットは松竹衣裳と歌舞伎座舞台が用意しています

▲礒部草丘の手により瑞雲などが描かれた「草丘の間」

広間の奥には水墨画家小林東雲氏により龍の画が描かれ、周囲に一葉式いけ花の家元粕谷尚弘氏があでやかな草花を飾ります。川の上流にある竜門を昇った魚が龍となる伝説を、水墨画と床のリフレクションを巧みに使いドラマチックな空間に仕上げています。

▲龍と化す前の錦鯉の群れを「紙にしきごい」で表現

同じく「草丘の間」には、新潟の印刷会社 DI Palette のぺーパークラフト「紙にしきごい」が宙を泳ぎます。新潟県長岡市発祥の錦鯉の姿をレーザーカッティング技術で再現。滝登りをした鯉が龍に生まれ変わるとの言い伝えを具現化しています。

▲「清水の間」ではおとぎ話に登場する生き物たちを展示。一部の作品は販売をしています

▲「清水の間」の生き物たち

左は井上裕起氏の籠の中のサラマンダー(山椒魚)。籠の中に捕らわれているようにも見えますが、安全に暮らしているようにも見えるサラマンダー。国家による庇護や国家間の紛争など、自由の意味を問うています。右はガラス作家、下田顕生氏の作品です。

▲「清水の間」に飾られた水咲知明葵氏の大作「孔雀」

黒く醜い孔雀が自分の羽根で人々を助ける中国のおとぎ話「くじゃくの花火」をモチーフに、内面の美しさを立体絵画で表現します。水咲知明葵氏は若い作家ながら、透明樹脂のレジンに線画や彩色を施すオリジナル技法 “凹版レジンアート” を考案。1枚ずつ仕上げた羽根は透明感のある繊細な出来栄えです。

▲「星光の間」では鬼や河童、モノノケなど、本当に怖いものは何かがテーマ。異界からの声も聞こえます

▲「星光の間」に出没する福鬼や陶人、サイボーグたち

たんすの裏や襖の向こうに潜んでいそうな小鬼や異界の住民たち。それでいて桒原淑男氏の陶人形は、どこかユーモアをたたえます。

▲“見るなの花座敷” をテーマにした「清方の間」

世界中のおとぎ話や神話では「絶対に見ないで」と言われても、好奇心に負けて見てしまい、無残な結末を迎える神話や物語がよくあります。「清方の間」には、見ずにはいられない数々の美しい作品を展示。すべで見ないではいられません! 写真は「和のこと遊び」。四角い布を折りたたんで花びらを作る “つまみ細工” を2,000個以上使った美しい作品です。

▲絶対に見てはいけない圧巻の造形美

上写真左は濱 直史氏の作品で扇子の上に折鶴を乗せた「扇子折鶴~南天」。折鶴の上層は雪模様、下層には南天の葉を切り絵にして、赤いビーズで立体的な南天の実を表現。右はキタガワアキコ氏のガラス細工で、繊細な造形美に見とれてしまいます。このような「見てはいけない」作品たちが「清方の間」に飾られます。

▲文化財「百段階段」の最上段にある広間「頂上の間」では、さらに天まで伸びる不思議な植物が立っています

天女に会うべく階段を昇り進めた来場者ですが、「頂上の間」に天女はおらず、展示作品の記憶と天女への憧れを心に秘めて会場を後にしなければいけません。照明作家の弦間康仁氏の作品は、紙や植物を使い360度放たれる光が周囲を異世界のように変換しています。

▲同じ形が再現なく繰り返される作品の細部

上写真左の天まで伸びる不思議な植物は、細かく折り曲がった紙と光が抜ける穴の連続で構成。右は本物のたんぽぽの綿毛が使われています。

▲ショップでは展示作家の作品も販売しています

ホテル雅叙園東京で開催中の光と影の非現実空間。夏の企画展「和のあかり×百段階段2024 ~妖美なおとぎばなし~」は、現世を忘れるミステリアスで幻惑される体験です。今まで味わったことのない不可思議な物語の中に、足を踏み入れてみてくださいね。<text&photo:みなみじゅん 予約・問:ホテル雅叙園東京 https://www.hotelgajoen-tokyo.com/100event/wanoakari2024>

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