◆“良い気分”の俳優人生

 そう、『ギークス』で田中みな実が白衣をまとう意味とは、彼女の演技が本質的に無色透明な俳優としてのスタートラインに立ったということではないかと思うのだ。これで完全に俳優一筋で生きていけるサインでもある。

 役柄に合わせたビジュアルのイメージでしかないはずなのに、本人の気概をひしひしと感じさせる。田中みな実は、それだけ力強く、繊細で、表現力豊かな俳優になった。

 第1話でいつものように居酒屋で、3人でしっぽり飲んでいると電話が。相手は娘。電話口でしっかりした口調の娘の話では、ます美の夫が他に相手を作ったらしい。『あなたがしてくれなくても』では主要登場人物の内、唯一、不倫の道にハズレなかった役を演じた田中が、今度は不倫される側という。

 居酒屋の外に出て電話するます美の目の前には、「良好気分」で「I I Ki Bun」と店名の読み方が書かれた看板が意味ありげに写り込んでいる。娘から「見栄張ってるんでしょ」と痛烈な指摘を受けて、「アハハハ」とから元気に笑うます美役の田中みな実を見て、“良い気分”の俳優人生を歩んでるんだなと思った。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu