◆触れていない=被害じゃない?

本作で採り上げられているレイプ神話のひとつに、「挿入されていないなら、それは軽い被害である」というものがある。莉生は、加害教師が女子生徒とふたりきりで会おうとしていることを知り、岸先生とその場に乗り込んだ。加害教師はまだ、生徒に触れていなかった。

さいきまこインタビュー後篇
※画像はイメージです(以下同)
さいき「事件のことが職員室で話されているとき、『被害は未然に防げた』という発言があり、莉生は間髪を入れずに『防げていません!』と返すんですよね」

信頼している先生が、性加害をするために自分を呼び出した。すでにグルーミングも行われている。莉生はそれを「被害は始まってた」と明言する。

さいき「これは私も、描きながら気づいたことです。以前の私なら『無事でよかった』と、このエピソードを終わらせていた可能性があります。不同意わいせつの被害者に『何もされなかったのなら、よかったじゃない』というのは、セカンドレイプなのに。

性的な対象としてモノのように扱われたという時点で性暴力なんだ、という認識に自分が至れてよかったです。露出や盗撮のようにまったく接触がないものも、被害は被害で、加害は加害です」

性被害が軽く考えられているのには、法律も関係している、と指摘するさいきさん。

さいき「性犯罪に対する量刑は、長いあいだあまりに軽かったと思います。強姦罪……現在の不同意性交等罪ですが、懲役になったとしてたった3年。その程度のことなんだ、と思われていたのでしょう。これが2017年の法改正によって、5年に引き上げられました。法務大臣が『強姦罪の刑罰=3年が、強盗罪の刑罰=5年より軽いのはおかしい』と発言したのがきっかけだったそうですね」