cover interview 奈緒

鳥飼茜氏の衝撃作・漫画『先生の白い嘘』が実写映画化される。本作はひとりの女性が抱える“自らの性に対する矛盾した感情”や、男女間に存在する“性の格差”に向き合う姿を描くことで、人の根底にある醜さと美しさを映し出したヒューマンドラマ。主人公の美鈴を演じる奈緒さんにお話を伺った。

Profile

1995年生まれ。2018年、NHK連続テレビ小説「半分、青い。」でヒロインの親友役に抜擢され、2019年にはドラマ「あなたの番です」で注目を集める。近作に映画『マイ・ブロークン・マリコ』『スイート・マイホーム』、『陰陽師 0』(公開中)、『告白コンフェッション』(公開中)、ドラマ「あなたがしてくれなくても」「春になったら」「演じ屋 Re:act」(放送中)など。公開待機作に映画『傲慢と善良』(9月27日公開)。

ともに苦しみ、戦うと誓った作品。今でも記憶の中に苦しさが鮮烈に残るけれど最後に少しでも希望を感じてもらえたら

漫画『先生の白い嘘』の連載が始まるや否や、その衝撃的な内容が口コミで広がり累計部数は100万部を突破。本作で主役の美鈴を演じる奈緒さんも読者のひとりだったそう。

「初めて原作を読んだとき、聞いたことのない誰かの叫びが自分の耳を突き抜けていくような衝撃を受けました。出演オファーをいただいたときはすぐにイエスとは言えなかったんです。作品にはいろんな人物のそれぞれの想いが描かれていて、いろんな立場に立って考えることができるお話だと思いましたが、美鈴に心情を重ね理解することはとても苦しいことでした。彼女を演じるということは、これから目の前で起こることにきっと大きく傷つく瞬間もあるだろうと想像できましたし、どんな覚悟を持っていればいいのか。それだけをすごく一生懸命考えました」

そして“この作品とともに苦しみ、戦う”と覚悟を決めたという奈緒さん。演じる美鈴は教壇から生徒を見下ろし、性差不平等に目を背けている高校教師。ある日、女であることの不平等意識を植え付けた早藤(風間俊介)との婚約を親友、美奈子(三吉彩花)から告げられる。早藤を嫌いながらも呼び出しに応じてしまう一方で、男子生徒にも悩みを打ち明けられ...という難しい役どころだ。

「美鈴として映画の中で生きたいと思っていたので、演じる上で大きなヒントになったのは親友の美奈子との関係でした。作品には美奈子と美鈴の回想シーンも多く出てくるのですが、美鈴にも普通の学生時代があったんですよね。でもある事件をきっかけに人生は大きく変わってしまう。もしあの事件がなかったら?どんな人だったんだろうというのはすごく考えました。ごく普通に一生懸命に日常を生きていた一人の女性にあんなことが起きたんだということを念頭に置きながら撮影に挑みました」

早藤役の風間さんとはお芝居でも共演している奈緒さんだが、現場ではあまり言葉を交わすこともなかったという。

「演者の一人ひとりが覚悟を持って臨んだ現場でしたが、とくに風間さんは大変な役だったと思います。あんな風間さんは初めて見るというくらい、めちゃくちゃ怖かったですから。現場でセリフ以外のお話をしたのは本当に撮影も終盤の頃ですね。また舞台でご一緒することが決まっていたのですが、風間さんから“この作品の話じゃない話ならしてもいいかな?”と声をかけてくださって。私はてっきり話してはいけないと思っていたので、それを伝えたら風間さんもそう思ってたって(笑)。そこで初めてホッとしたというか、この作品中初めて風間さんと穏やかな時間を共有することができました」

改めて撮影を振り返ってもらうと、やはり「苦しかった」と奈緒さん。

苦しい撮影の合間に、奈緒さんの心の支えになったものはなんだろう?

「自分自身、かな...。“これが心の拠り所”というものをひとつに絞ってしまうと、それに依存してしまうのが怖いので、その時々の自分の心に従うようにしています。何がしたいのか、どうしたら自分が幸せになれるのか。結局決めるのは自分だと思うから。私、こう見えてせっかちなんですよ(笑)。だから直感というか、そのときしたいことがすぐ頭に浮かんで行動できる自分には助けられてますね」

最近、奈緒さんが感じた些細な幸せを伺うと。

「出演させていただいていた連続ドラマ「春になったら」の撮影中に29歳の誕生日を迎えまして。共演者の方やスタッフの方たちにたくさんプレゼントを頂いたんです。その中に影山優佳ちゃんからいただいたスープカップと、小林聡美さんからいただいた海苔が入ったお茶漬けがあるんですけど、おうちでそのカップにお味噌汁を注ぎ、お気に入りのどんぶりでお茶漬けを食べているときが幸せです。海苔の量がね、本当に大量で、食べても食べても出てくるんです(笑)。そんな時間をひとりで楽しみながら、幸せだった撮影の記憶を思い出すとすごくあったかい気持ちになれますし、そういうゆったりした時間をちゃんと自分の生活に取り入れられる余裕を持つことは自分を癒す上でとっても大切なことだと思っています」