『Untitled(Squashed Ball)』2022

東京都台東区浅草橋の「CASHI」にて、アーティスト・酒々井千里(すずいせんり)氏の個展「むだな抵抗」が、6月28日(金)~7月27日(土)の期間開催される。

常に抵抗を試みている、酒々井氏の作品

『イタダキ』2022 / Photo by Ujin Matsuo

酒々井千里氏は、1998年岐阜県生まれの作家で、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画研究室に在籍。2021年度の東京藝術大学卒業作品展では、通常なら卒業制作作品となるであろう大作の絵画を、アトリエの壁面を模した白い大きな簡易壁で覆い隠したインスタレーション『イタダキ』を展示し、「サロン・ド・プランタン賞」を受賞した。

自身の作品たちは、常に抵抗を試みている、と語る酒々井氏。しかし、その抵抗はデモ活動のような能動的なものではなく、作品が持ってしまった意味や個性を、白壁風のキューブや板で隠したり、押し込めたり、挟み込んだりすることで、まるで人目を避けるかのように表現されている。

アーティストステートメント

今回の個展のタイトル「むだな抵抗」について、酒々井氏は以下のようにコメントしている(一部抜粋)。

『Untitled』2024

『Untitled』2024

「むだな抵抗」。この言葉はこの展示の初めのミーティングの時にCASHIの松島さんから発せられた。この言葉について考えてみる。
まずは抵抗について。抵抗をイメージするとき、同時に圧もイメージされる。より小さな力がより大きな力に反発するときに「抵抗」が現れる。ではその「抵抗」とは、しているのか、させられているのか。主体はどこにあるのだろうか。
能動的に「抵抗する」。
受動的に「抵抗する」。
能動的に「抵抗しない」。
受動的に「抵抗しない」。
そしてただの「抵抗」ではなく、「むだな」という言葉で修飾される。この意味とは何だろう。このニュアンスとは何だろう。「むだな」という言葉にはどこか否定的な意味合いがある。それからここでは、たぶん、少し、自虐するような意味合いで使われているのだろう。
例えば絵を描くと何かしらの独自性、オリジナリティが生まれる。自分はいつもその独自性に対して多かれ少なかれ不安を感じてしまう。その不安が過度に大きくなると、自分自身の作品を否定したくなるときがある。それゆえニュートラルな(例え、仮でもいいから)物体で絵の表面を隠す。当然のことだが、絵の前面に不透明な物体を配置し、後ろの部分を隠してしまえば、その部分は見えなくなる。表面を隠せば、正面からは見えなくなる。
しかし、そうしてニュートラルの仮面を手に入れた絵は、本来の独自性を薄めることには成功するかもしれないが、同時に別の何かに変容してしまう。仮のニュートラルの仮面が妙に目立ち、不自然な存在感を持ってしまう。
否む。
視線を阻む。圧。
迂回するように見る。なりそこなった光景。
無駄、むだ。むだな、抵抗。

個展「むだな抵抗」は入場無料。個展に足を運び、酒々井氏と、酒々井氏の作品たちが試みるゆるやかな抵抗を体感してみては。

■酒々井千里 個展「むだな抵抗」開催概要
期間:6月28日(金)~7月27日(土)
時間:11:00~18:00
定休日:日曜日・月曜日・火曜日
会場:CASHI
住所:東京都台東区浅草橋5-6-12-1F
展覧会ページ:http://cashi.jp/lang/ja/exhibition/3082.html

(佐藤ゆり)