北海道札幌市、子ども2人の母子家庭で生活保護費が最低賃金額を10万円程度上回るケースがあります。
過去、神奈川県内に住むサービス業や保育、学童保育など様々な業種で働く20代から70代の労働者50人が、「神奈川県の最低賃金が生活保護を下回っている」ことが憲法や最低賃金法に違反するとして、国を相手取り、最低賃金を時給1,000円以上にするよう求めて横浜地裁に出訴した、ということがありました。
先進国最低レベルと言われる日本の最低賃金。「生活保護費」よりも低いケースもあるようです。
今回は、元税理士事務署経理としてさまざまな人間の給料事情をかいまみてきた筆者が、日本の最低賃金額と生活保護費が最低賃金を上回る可能性がある家庭について解説します。
最低賃金でしかも全国最低レベルなのは‥‥?
都道府県別の最低賃金額は東京がもっとも高く(マシで)、月給17万円程度です。逆に最低賃金額でしかも全国で最低レベルなのは沖縄で月給14万円程度となりました(令和5年)。
・最低は沖縄:896円/月14万
・全国加重平均額:1,004円/月16万
※月額は、週40時間月160時間労働した場合
お隣の韓国では最低賃金が9,860ウォン=約1,080円(2024年)/月17万程度とのことなので、先進国でもかなり低い水準にあることは何となくわかるでしょう。
生活保護費が最低賃金を上回る可能性があるのは子育て世帯
生活保護費が最低賃金を上回る可能性があるのは子育て世帯です。
生活保護では特定の世帯で支給額が増額される「加算」があります。
中でも「児童養育加算」、「母子加算」、「経過的加算」は、主に子どもがいる家庭が対象となります。
・母子加算:19,000~24,000円程度(子どもの人数、年齢、地域などによる)
・経過的加算:1,700円~4,000円程度(子どもの年齢、健康状態、人数などによる)
【生活保護費は市町村により異なる】
生活保護とは国や自治体が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために、一定の条件に基づいて対象となる国民に対し、最低限度の生活費が足りない場合に不足分を支給する制度です。生活保護費は市区町村により異なります。
北海道札幌市3人の母子家庭、生活保護費が最低賃金より10万円上回るケースも
北海道札幌市、子ども2人(9歳と4歳)の3人家族において、生活保護費は月24万円~26万円程度となるので、最低賃金の15万円程度より、10万円も上回るケースがあります。
● 1ヵ月の労働時間は160時間(時給960円、8時間×20日)
※最低賃金額は令和5年を参考にしています。
1ヵ月あたりの生活保護費の内訳は以下のようになります。
生活扶助 | 14万8,100円 ※第1類(個人ごと)、第2類(世帯ごと)の 合計額かつ特別加算あり |
加算 | ・母子加算:2万3,600円 ・児童養育加算:2万380円 ・冬季加算:2万620円 |
教育扶助 | 3,680円 |
住宅扶助 | 4万6,000円 |
合計 | ・夏季(5~9月):24万1,760円 ・冬季(10月~翌4月)26万2,380円 |
最低賃金が上がらないのはなぜ?政府の物価に連動する動きに課題が…?
日本の最低賃金が欧米諸国レベルに上がらない原因として、「政府による賃金と物価連動によるサポートがないこと」 も課題として挙げられていることをご存じでしょうか。
他国の最低賃金が上がっても「日本はデフレ」という免罪符を使って何もしてこなかった とが今の事象につながっているのではないでしょうか。
賃金水準にはほかにも、さまざまな要因がからんでいると思われます。
● 一度上げた賃金を再び下げることによる人材流出が怖い
● IT化の遅れや国内取引が中心であることなどの理由で労働生産性が低い
● 賃金が上がらなくても意外に労働者は転職しない
● そもそも資金量が潤沢でなく賃上げをできるだけの余力がない
最低賃金が大きく上がらない限り少子高齢化は加速する
最低賃金を大きく上げることは、少子化対策という点でも理にかなっています。少子化が起きる原因のひとつに「結婚・育児に対する経済的負担」があるからです。
簡単にいうと「お金がないから結婚も子育てもしたくない(できない)」という人が増えているということです。結婚にも子育てにもお金がかかる以上、少子化を食い止めるには最低賃金の引き上げは不可欠と言えるでしょう。
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文・荒井美亜(金融ライター/ファイナンシャル・プランナー)
立教大学大学院経済学研究科を修了(会計学修士)。税理士事務所、一般企業等の経理を経験して現在は金融マネー系ライターとして活動中。日本FP協会の消費者向けイベントにも講師として登壇経験あり。