◆笑いは苦しいことを乗り越えるために人類が生み出した“知恵”
――今回の作品は漫才師の数だけ人生があり、業界の人間じゃなくとも感情移入するシーンもありましたが、監督した塙さんは特に胸が熱くなる瞬間もあったのではないですか?
塙宣之(以下、塙):ちょっと熱くなりましたね。やっぱり漫才師は、挑戦して失敗して苦しまないといけないんですよね。生きていく上ではつらいこと、苦しいこと失敗の連続で、それがない人生なんかないわけですから。それがないって、何もしていないわけですよね。どんな人でも人生は進むと波風が立つようになっているわけです。
その時に必要なものが笑いです。笑いはそれを乗り越えていくために人類が生み出した知恵であって、動物にはないわけです。だからそこが観てもらいたいところなんです。映画の舞台となっている東洋館に来てもらって、日々の悩みを消化してもらいたい思いがあるので、それは全体的なテーマとして感じてもらいたいことですね。
――塙さんご自身は、お笑い人生で一番きつかった時はいつでしたか?
塙:くじけそうな時はしょっちゅうありますよ。常にそうですね(笑)。たぶん僕以外でも、ここ最近の芸人みんなに、明らかにくじけそうになる時があると思う。というのもSNSがあるから、見たくもない記事とか、そういうものが全部目に入る時代じゃないですか。
そうすると、どんな芸人でもそれを気にするようになっちゃう。気にしてしまい、SNS上だけのネタみたいなことになっちゃうんですよね。スマホの小さい世界だけの物の見方しかできなくなっちゃうことが、僕はあんまり好きじゃなくて。漫才協会に入った時はそんなものなかったですから。悩みの質がちょっと変わってきちゃいましたよね。