肌寒くなってきた昨今。今年の夏は暑く、秋は涼しくと、季節の移り変わりを強く肌で感じる1年ではあったものの、スーパーに並ぶ食材や毎日の食卓からはあまり変化を味わえなかったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今年で創業101年になる老舗工房『五十嵐製紙』が新たに生み出したのは、野菜や果物からできた紙「FOOD PAPER」。薬品はなるべく使わず、自然の食材から生まれた「FOOD PAPER」は、独特な色味と風合い、そして日本ならではの“食材の旬”を感じられる商品です。誕生のきっかけは、なんと『五十嵐製紙』の五十嵐匡美さんの息子さんの自由研究だったのだとか。そんな「FOOD PAPER」が生まれた背景にはどんな想いが込められているのでしょうか。
息子さんの自由研究から生まれた「食べ物からできた紙」
「小学5年生の息子が夏休みの自由研究で何をしようか悩んでいたところ、あるテレビでバナナパーペーを知ったらしいんです。昔から紙作りに触れていた息子は『これだったら僕にもできるんじゃないか』と思ったようで、いろんなものから紙を作り始めました。本来、そのバナナペーパーは幹の皮から作るものだったのですが、うちの子は勘違いしてしまったみたいで、実の皮を丸ごと使っていました(笑)」と笑顔で話してくれたのは、オーナーの五十嵐さん。他にも竹の子の水煮やエリンギを使用するなど、大人には想像もつかないような食材を使って息子さんは紙を作っていったそう。
ちょうどその頃、福井県主催の『経営とブランディング講座』を受講していた五十嵐さんは、たまたま同じ講座を受けていたデザイナー新山直広さんと越前和紙の魅力を伝えるプレゼンテーションの内容を話し合っていました。
「新山くんが紙を作るにあったって現場の課題を隅々ヒヤリングしてくれたんです。課題といえば、和紙を作るときに必要な原料が入手しづらくなっていること。じゃあそれを打破するために何か代替えできるものはないかと話したところで、新山くんが『そういえば、僕ずっと食べられる紙を作ってみたいと思っていたんだよね』と。『食べられるかどうかわからないけど、食べられるものから作った紙なら息子がやったことあるよ』と息子の研究ファイルを見せました。新山くんが『五十嵐さん、これだって!これにしましょう!』と絶賛してくれて、ほんの少しの会話からバタバタと決まっていったんです」。
それから五十嵐さんと新山さんは講座が終わる11月の最終プレゼンテーションで「FOOD PAPER」を発表し、見事に最優秀MVPを獲得。そして、翌年2月には東京の展示会に出店するため、3ヶ月で作品を仕上げていきました。「死に物狂いで駆け抜けましたね。その頃は一緒に住んでいる家族よりも、新山くんといるほうが多かったくらい(笑)」と五十嵐さんは振り返ります。
自然のものを自然なままで。「FOOD PAPER」と楽しむ季節の移ろい
「FOOD PAPER」は福井県で出た廃棄物から作られています。一番のメインはにんじんと玉ねぎ、じゃがいも。「新山くんと廃棄物を寄付してくれる場所を探し回っていたとき、病院や学校へカット野菜を届けている福井県の食品加工工場から声をかけてもらったんです。そこから大量に出るにんじんと玉ねぎ、じゃがいもの皮を中心に使っていますね。輸送費のことを考え原料は県内から調達していますが、声をかけられる機会が少しずつ増えてきました」。
現在販売されている「FOOD PAPER」の商品は、ノート、メッセージカード、サコッシュ、小物入れ、フードストッカーの5種類。それぞれの食材の色と風合いがよく表れています。
五十嵐さんと新山さんが大切にしているというのが季節感。「スーパーに行っても常に同じものが売っているので、何が旬なのかわかりにくいですよね。だから、なるべく春夏秋冬それぞれの食材を取り入れたいと思っています。これからの季節はみかんとか」。お手紙を送るとき、さりげなくその時季の旬の食材の紙にメッセージを添えるなんて、粋な心遣いですよね。
興味津々なのが「FOOD PAPER」でできたサコッシュ。他の商品とは違い、こんにゃく粉をお湯で溶いた「こんにゃくのり」を染み込ませることで、ある程度の撥水と強度を補填しています。洗濯はできませんが、多少の雨であれば濡れても大丈夫とのこと。「こんにゃくのり」と聞いて、加工の工程ですら食べ物が出てくることに驚きました!
「もちろん薬品を使えばもっと水に強くもできるんですよね。でも、できるだけ自然なもので作りたいと考えた結果、『こんにゃくのり』に行き着いたんです。食べ物の力ってすごいんですよ(笑)」と五十嵐さん。
色味や季節感、その豊富な種類の他に「FOOD PAPER」を楽しむコツは、その商品の経年変化に気づいてあげること。「自然なものからできているので、だんだんと色が薄く、少し茶色に近づいていきます。植物が枯れていくのは当然のこと。そういった変化も楽しんでほしいなと思っています」。紙になってもなお、生きて、そして枯れていく自然の姿を感じられるのは、薬品を最小限にしているからこそ。まさに「生きているんだなぁ」と思わせてくれる感慨深さがあります。
毎日手にとって、自然に思いを馳せる時間を大切に
「私自身は自分の名刺を『FOOD PAPER』にしていて、いろんな食材から作ったものを持ち歩いています。渡すときに『どれがいいですか?』とお伺いし、そこから会話が広がっていくので、いいビジネスパートナーですね(笑)。あとは、切れ端を花瓶敷きにしてみたり」。
現在では、和菓子屋から出るお茶っぱからパッケージの一部を作ってほしいという依頼や、会社から出る廃棄物で名刺を作れないかという相談など、「FOOD PAPER」の輪はじわじわと広がり始めています。
「今、少しずつお声がけいただくことが増えています。新しいところと取引することで、今まで扱っていなかった新たな食材にチャレンジできる。それがすごく楽しみなんです。『FOOD PAPER』をきっかけに、企業の方にエコやゴミ問題を考えてほしいことはもちろん、市販の商品もたくさんの人に手に取ってもらって、少しでもゴミを減らす生活を送ってもらえたら」と五十嵐さん。
「FOOD PAPER」を手に取る回数が増えるほど、環境のことを考えるきっかけも増してほしいという想いから、商品ラインナップは生活に密着したものを中心にしています。毎日手にとるものであるからこそ、植物の尊さをより身近に感じられるはず。
「FOOD PAPER」五十嵐さんの想いを乗せて、人を巻き込みながら広がり始めています。これまでとは違った新しい植物ライフを「FOOD PAPER」と共に楽しんでみてはいかがでしょうか?
提供・PARIS mag(シンプルで上質なライフスタイルを提案するWEBマガジン)
【こちらの記事もおすすめ】
>今気になるのは“固め”プリン。都内で楽しめるプリン6選
>フランスの国民食!クスクスを使ったタブレのレシピ
>おうち時間に作りたい!家庭で作るフレンチレシピ集
>パリのブロカントショップ『Brocante Petite LULU』に聞く、アンティークの楽しみ
>2020年最新!パリグルメ通がおすすめするパリのお土産4選