◆父の死を乗り越えられなかった10年間。そして…

木村多江さん
――いつからそのように考えるようになったのですか?

木村:30歳前半くらいの時、わたしは父の死を10年近く乗り越えられず、自分の生きている意味みたいなものが、どうしても分からなくなってしまっていたんです。そこを乗り越えるのに、いかにみなさんに支えていただいてきたか。だからわたしはこうして生きてこられたし、頑張ってなんとか仕事をしてこられたんだなと思ったら、やっぱりそこは恩返しをしていく、今度は反対の立場になっていきたいと思うんです。

あとは『ぐるりのこと。』という映画の時に、リリーさんが演じたカナオという人が、わたしが演じる翔子をずっと支えてくれていて、人に手を差し伸べられることは素敵だなと思ったんです。手を差し伸べるって、ちょっと上からのような感じになっちゃうけれど、誰かが手を繋ぎたい、助けてと言っている時に、それまではどうせ手を離されるんだったら掴まないほうがいいと思っていた。

誰かと仲良くなるにしても、この人もいつか手を離すかもしれないと不安になってしまい、だったら仲良くならないほうがいいって言って、すべてにバリアを張って生きてきたんですよね。

でも、離されちゃってもいいじゃないかって。いつでも困った時に手を差し伸べられる人間になりたいな、カナオみたいな人になりたいなって思いました。あの映画以降、そういう風に思えるようになったような気がします。

――そしてまた時を経て、リリーさんと再共演という形で、その命題を実践するかのような作品に携われたということは、本当に素敵なことですね。

木村:そうなんです。この映画を通して、何かそういう人の絆みたいなものも感じていただけたらうれしいです。

<取材・文/トキタタカシ 撮影/塚本桃>

【トキタタカシ】

映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。