◆駆け落ちは、駆け落ちした瞬間がピーク

『光る君へ』10話(C)NHK
道長は身分ある人だ。それを捨て、家族も捨てて、ふたりだけで遠い国へ行こうと言う。

幼いころから想いを寄せていた相手に、熱烈な愛をぶつけられて嬉しくないはずがない。しかし、まひろは首を横に振る。道長には都でなすべきことがある。道長が偉くならなければ直秀のような無残な死に方をする人はいなくならない、と。

それでも道長は食い下がる。まひろは頷かない。出世をし、良き政をするのが道長の使命である、とこちらも引かない。

一方でまひろは、道長が全てを捨てて、畑を耕したり、生活をするために泥だらけになっている姿を想像できない、とも言う。道長は身分ある人だから当然とも言えるが、まひろはふたりの未来が想像できないのなら、共に行くことはできないだろう。だが、まひろの立場になって考えてみると、そんな想像があの場でできるのってとんでもないことなんじゃないだろうか。愛をぶつけられ、抱きすくめられ、口づけをされ……自分が恋焦がれている相手に「一緒に遠くへ行こう」と言われたら何も考えられずに「はい」と言ってしまいそうなのだが……と考えてしまう筆者が浅はかなだけかもしれないが。

でも、「この人は後先考えずにそんなこと言って!」と冷める可能性だってあり得る。まひろは共に行くことを拒みつつも、道長と肌を重ねる。冷静なようであって、まひろだって愛に浮かされていたはずだ。人の心の複雑さよ。

ふたりが体を重ねるシーンはなんとも美しい。月夜に照らされるまひろの表情にはあどけなさと艶やかさが入り混じる。彼女は愛する人の腕の中で何を想ったのか。

『光る君へ』10話(C)NHK
しかし、甘い時間を過ごしたあとに静かに「振ったのはお前だぞ」と言う道長が怖い。