「この化け物と同じ時代に生まれた限り、僕はおそらく作り手として一生、自分に満足できない気がする……」

『イップス』で脚本を担当しているオークラは、著書『自意識とコメディの日々』(太田出版)の中で、主演のバカリズムについてこう書いています。1990年代後半から2000年代前半の東京のお笑いライブシーンのド真ん中には、この2人がいました。

 オークラがバナナマン、ラーメンズ、おぎやはぎ、東京03らと次々に斬新なユニットコントを生み出していた一方、コンビを解散し、孤高を貫いていたバカリズム。2人が仕事を共にしたのは、実質的には14年のドラマ『素敵な選TAXI』(フジテレビ系)の共同脚本を待たなければなりませんでした。このドラマで脚本家としての評価を確かにしたバカリズムはその後、『架空OL日記』(読売テレビ)でテレビドラマ界の最高栄誉である向田邦子賞を受けることになります。

 そのきっかけを作った『素敵な選TAXI』の演出は筧昌也。今回の『イップス』でも演出を担当しています。

 今回はオークラの単独脚本で、バカリズムを動かす。それは渋谷シアターDの舞台裏、狭すぎる楽屋で肩を触れ合わせながらすれ違っていた2人にとって、実に30年越しの大河ドラマなわけで、そりゃ見方は甘くなっちゃうよなぁとハードルを下げつつスタートです。

 振り返りましょう。