(C)Photo: Shanna Besson - 2023 - LBP - EuropaCorp - TF1 Films Production - All Rights Reserved.
この世には、人間ならではの苦しみが多くある。無意味な争い。さらに差別や偏見。そしていじめ。もちろん他の動物に争いやいじめがないわけではないが、知能が異様に発達した人間ならではの苦しみは確実に存在する。そんな“人間による苦しみ”を極度に味わった不幸な青年が、犬しか信じられなくなってしまったら…それを描くのが3月8日(金)公開の映画『DOGMAN ドッグマン』だ。
映画『DOGMAN ドッグマン』レビュー
【動画】『DOGMAN ドッグマン』予告編
『DOGMAN ドッグマン』あらすじ
ある夜、警察に止められた一台のトラック。運転席には負傷し、女装をした男。荷台には十数匹の犬。“ドッグマン”と呼ばれるその男は、半生を語り始めた―。
犬小屋で育てられ暴力が全てだった少年時代。トラウマを抱えながらも、犬たちに救われ成長していく中で恋をし、世間に馴染もうとするが、人に裏切られ、苦しめられ、深く傷ついていく。犬たちの愛に何度も助けられてきた彼。彼は絶望的な人生を受け入れ、生きていくため、犬たちと共に犯罪に手を染めてゆく。しかし“死刑執行人”と呼ばれるギャングに 目を付けられ― 映画史に刻まれる愛と暴力の切なくも壮絶な人生に圧倒される。(公式HPより)
レビュー
リュック・ベッソン監督らしい最新作
今作の監督はリュック・ベッソン。ベッソン監督といえば、『レオン』『LUCY』『ANNA/アナ』など、ひとりの人物に焦点を絞ってアウトローな争いを描くことが多い印象だ。今作『DOGMAN』では肉体アクションという面は抑えめ。しかし、孤独な人物のアウトローな争いを描く点では監督の過去作に共通している。
そして、今回も物語はわかりやすくエンタメ性がある。しかし心に刺さる容赦のなさとシリアスさも持ち合わせている。そのバランスもベッソン監督らしい部分といえよう。
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの演技
今作で心が痛くなるような不幸な人生を送る主人公ダグラス。彼を演じたのは、『アンチヴァイラル』『ゲット・アウト』『ニトラム』でも独特の役を演じこなしたケイレブ・ランドリー・ジョーンズだ。
“演じる人”を演じる。そんな難しいチャレンジを、ケイレブは持ち前の演技力でこなしてみせた。
ケイレブ演じる“ドッグマン”=ダグラス。彼が漂わせるのは、どこか『ジョーカー』のホアキン・フェニックスや「ハンニバル」のマッツ・ミケルセン、『ボーンズ アンド オール』のティモシー・シャラメなどを彷彿とさせるような、闇を抱えながらすべてを他人にさらけ出さないミステリアスさ。この怪しげな魅力には、他人を強く引き込む力がある。過去の出演作でもそうだが、ケイレブには彼にしか出せない“儚げだが恐ろしい”オーラがある。今作ではそれが十二分に発揮されていた。
NAM(E OF)GODー不幸な人生を救うものは?
今作序盤、文字を反対から見て“DOG MAN”を示す演出がある。「神の名(NAME OF GOD)を唱えよ」とする布を、不幸なダグラスが裏から見る。すると「E OF」の部分が柱で隠れて「DOG MAN」に見えるのだ。
敬虔なクリスチャンであるダグラスの家族が、今作でもっとも不愉快で粗暴な存在である。どんなに善良な者が苦しもうと、神は簡単には救ってくれない。
ダグラスは見えない神(GOD)よりも、いつでもそばで、素直に寄り添ってくれる犬(DOG)に救いを求めた。そして、ダグラスは自分の幸せ・正しさを常に自分で考える。法律のような他人が決めた尺度でその価値観は計れない。
DOGとMANだけの世界には「敵」はなし
結局のところ、幸せとは何を信じ、どう考えるかなのかもしれない。それは人によっては宗教かもしれない。また、人によっては信じる誰かの言葉かもしれない。そして、人によっては自分だけが考える強い信念かもしれない。犬を信じ、犬を信じる自分を信じ、暗い過去を抱えても不敵に笑うダグラス。犬(DOG)とダグラス(MAN)がそろえば“敵なし”だ。
これはこじつけかもしれないが、柱で隠れた「E OF」を反対にすると「FOE(敵)」となる。「NAME OF GOD(神の名)」を裏から「DOG MAN」にした時、彼の世界は彼と犬だけのものになった。つまりその生き方への転換が、「FOE(敵)」がいない安全圏に入るための救いだった。そう考えるのも面白いかもしれない。
賢すぎる犬たちを応援しよう(犬は無事です)
そして、今作に登場する犬たちは、あまりに賢い。「そんなことまでできるのか」と笑ってしまうほどの大活躍を見せる犬たちには心から癒され、応援したくなった。車椅子生活のダグラスの代わりに手となり足となる犬たちの健気な姿。ハラハラドキドキさせられるギャングたちとの戦い。そしてダグラスが見せる幸せの形。今作には多くの魅力がふんだんに詰まっている。
ちなみに、公式も発表しているため注釈しておくと、今作で犬は命を落とさない。ハラハラはするが、犬好きも安心して見られると伝えておきたい作品だ。
レビューまとめ
『レオン』のリュック・ベッソン監督らしい、孤独な人物のアウトローな争いを描く『DOGMAN ドッグマン』。物語はわかりやすくエンタメ性がある。そして同時に心に刺さる容赦のなさとシリアスさもある。彼にしか出せない“儚げだが恐ろしい”オーラを発揮するケイレブ・ランドリー・ジョーンズと、賢すぎる犬たちが織りなす緊張感のある今作では、“幸せとはどう決まるものか”を改めて考えさせられた。
『DOGMAN ドッグマン』は3月8日(金)公開。
『DOGMAN ドッグマン』作品情報
脚本・監督:リュック・ベッソン
出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
2023年|フランス|カラー|シネマスコープ|5.1ch|114 分|英語・スペイン語|PG12|日本語字幕:横井和子|原題:DOGMAN|配給:クロックワークス
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