松本はこのVTRを見た瞬間「井戸田の反応が早い、しかも声もでかい」「これ、やってるんじゃないか」「どうなんだこのVTRは」と感じたはずだ。そして、「自分以外はどう思ってるんだ?」と確認したくなったのだろう。
瞬時のことだ。そのVTRを見ての感触を松本が確認したくなった相手が、小峠だったということだ。
この説のプレゼンターはサバンナ・高橋であり、小峠のパートはすでに終了している。スタジオには麒麟・川島、カズレーザーというゴールデンMCクラスの芸人が2人もいる。もちろん、相方の浜田雅功もいる。その中で、松本が選んだのが小峠だった。もう一度書くが、瞬時のことだ。瞬時、松本は「俺はおかしいと思うが、小峠、お前はどうだ?」と、その反応を窺ったのだ。この錚々たる顔ぶれの中で、松本がもっともその価値観や評価軸を信頼している芸人が、小峠だったのだ。
『キングオブコント2012』(TBS系)で悲願の優勝を果たしてから10年。小峠はブレークタレントとして多忙な日々を過ごしてきた。その間、松本との共演も数知れない。2人はプライベートでも飲みに行く仲だと聞く。19年の年末には、小峠が所属するSMAの事務所ライブに、松本が審査員としてサプライズ登場したこともあった。小峠の酒席での依頼を松本が快諾し、キャパわずか178の小さなライブハウスをノーギャラで訪れたのだという。
気に入っている後輩だとか、能力を評価しているだとか、言葉にすればその関係性は、ありふれたものかもしれない。だが、あの瞬間、松本が小峠に送った視線の意味は確かに、小峠英二という芸人のキャリアを証明していた。
(文=新越谷ノリヲ)