◆音楽を奏でる喜び、聴く喜び
特別美声というわけでもない。なのにどんなシンガーよりもしっとりつややかに歌唱は響く。歌唱を支える持ち前のピアノ演奏は、前奏も伴奏も独奏も音楽を奏でる喜びに満ちている。メロディから音がこぼれてきそうな気配すら。
もちろんこぼれない。リスナーをそう錯覚させながら、たちまちにして音楽を聴く喜びに目覚めさせる。気づけば、藤井風ワールドのグルーヴィーな渦の中でぐるぐる回っている。
デビュー前からYouTubeを主たるプラットフォームとして、古今東西のカバー曲をアップしてきた彼ならではの技芸も魅力あふれる。例えば2021年リリースのカバーアルバム『HELP EVER HURT COVER』に収録されている「Beat It」を聴いてみる。
マイケル・ジャクソンが1982年にリリースし世界的メガヒットとなった『スリラー』からシングルカットされたナンバーだが、これが藤井の強い打鍵のリズム感によって、ものの見事に独自の表現に落とし込んでいる。恐るべき才能を感じた。
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